人はなぜ、特に初対面のときの会話の途中で沈黙が訪れたとき、趣味の話をするのだろうか。やはり、それが無難で、他愛ない話題だからだろうか。しかし、何気ない趣味の話になったとき、時として残酷なことも起きる。

私は小さなころから初対面の状況や自己紹介が苦手だった

忘れもしない、それは私が大学3年生の夏休みに参加したとある大手企業のインターンシップ初日のことだった。5日間のインターンシップはグループごとに分けられ、最終的に新商品のアイデアを考え、社員にプレゼンテーションをするというものだった。その5日間のほとんどをグループで作業するため、グループ内の仲がよくなることは重要だ。インターンシップ初日、社員の用意したくじを引き、その紙に書かれたアルファベットのテーブルに向かうと、すでにそこには3人の女の子と1人の男の子がいた。私は「よろしくお願いします」、と小さく声をかけ、椅子に座った。その後すぐにもう1人男の子が来て、グループ6人分の椅子がすべて埋まった。私が来る前に来ていた4人はすでに打ち解けていたようだが、私ともう一人の男の子が来てそろったことを確認すると、「じゃあ、仕切り直しってことで、もう一回自己紹介しよっか」と華やかな雰囲気の女の子が言った。私は小さなころから初対面の状況や自己紹介が苦手だったが、もちろん彼女の提案を断れるわけがなかった。

本当の趣味を伝えると、刃のような言葉が飛んできた

「じゃあ、あの、あなたからお願いできますか」と彼女から視線を向けられたのは私だった。“私はこういうときにいつも運が悪い……”と心の中で毒づきながらも、私は自分の名前や出身などを簡単に述べ、「以上です。これから5日間、よろしくお願いします」とそこで終えようとしたところ、最初に自己紹介をしようと言った彼女がそこで「えーっそれだけですか」と軽く不満を訴え、「趣味とかないんですかー?」と聞いてきた。そこで、カフェ巡りや美術館巡りなど多くの人が言う無難なものを言えていればよかったのだろう。

しかし、緊張していた私は、上手く取り繕えずに、「えーっと……趣味、ですか。そうですね、落語鑑賞と読書が好きです」と本当のことを言ってしまった。何となくグループの他の人が私の一言にどう反応していいかわからないというような雰囲気だったが、それに気づいたのが遅かった。急いで、何か言わなくちゃ、と焦ったが、その焦りは無用だった。今度は、もう一人の女の子が私の話題を広げようと思ったのだろうか。「読書って、例えばどんなジャンルの本を読むんですか?」と聞いてくれた。その問いに対して、「推理小説とか、ミステリーが好きです」と答えた。

そのとき、リーダー格の華やかな女の子が間髪入れずに、「えー!おじさんぽい趣味だねー!」とケラケラ笑いながら言ったのだ。彼女に悪気はなかったのだろう。むしろ、その場を盛り上げようとして言ってくれたのだろう。それでも、彼女の発言は私にとって鋭すぎる刃のようだった。大好きな趣味を、“おじさんぽい”と言われるなんて。

その後の他の人の自己紹介の内容や、インターンシップでしたことは、正直あまり覚えていない。もちろん一生懸命取り組んだと思うが、初日に受けた打撃を恥ずかしながら引きずっていたのだ。趣味の話題を振られたとき、きっと私は大学生の女の子がよく言うものを挙げていればよかったのだ。読書で好きなジャンルを聞かれたときも、きっと恋愛小説などと言っていればよかったのだと思う。しかも、初対面で相手がどんな人かもわからないときは。しかし、それでも私は嘘がつけなかった。何か適当に当たり障りのないことを言えなかった。空気が読めないって、もしかしたら私のことなのかもしれない。

他の人から見たらおじさんぽい趣味でも、私はそれが好きなのだ

思えば、高校と大学は受験での選抜があったため、そこにいるのは自分と同じような人たちばかりだった。一人一人の個性を尊重し、変な目で見られたり、まして自分の趣味を“おじさんぽい”なんて言われたりしたことはなかった。そんな自分と似たような人に囲まれた空間は居心地がよかった。それでも、きっとそれは実際の社会とはかけ離れていたのだろう。実際の社会は、インターン初日で経験したように、色んな人がいる場所なのだろう。

それでもあのとき、自分の趣味を正直に言ったことは後悔していない。だって、本当に好きなのだから。他の人から見たら、落語鑑賞や推理小説が好きなことはおじさんぽいのかもしれない。でも、私はそれが好きなのだ。そして、正直に言ってしまった私は、他人から可愛いなんて思われないだろう。でも、正直者であることは、せめて自分だけでも好きでいたい。