彼女は未来に夢を馳せていた。「中学になれば、きっと」と思っていた

少し…昔の話をしようと思う。

自分の存在を消したいと
願っていた少女の話だ。

小学生の頃、彼女は食べることが
大好きだった。
少しぽっちゃりしていたが、
よく笑っていた。
同級生の男子から
「デブ」や「ブタ」と言われても
笑っていた。
他にやり過ごす術を知らなかったのだ。

いつか、いつか
痩せて見返すのだと
彼女は心の奥底で泣いていた。

時は過ぎ、彼女は中学生になった。
通勤距離が少し遠くなり、
彼女は少し痩せた。
ダイエットにも興味が芽生え、
体型を気にするようになった。
それでも、男子からの悪口は
続いた。

「ブス」「キモい」
「死んでくれないか」などなどの悪口。

「あいつと話せるなんて
勇者だな」と彼女に、プリントを
渡してくれた男子が他の男子に
声をかけられていたこともあった。

「見たくないなら見なきゃいい」
そう心の中で思いながら、
彼女の表情はどんどん冷たくなった。

いつも、いつも…
彼女は未来に夢を馳せていた。

「中学になれば、きっと」

そう思っていた彼女は
また再び未来に想いを託した。

また再び未来に想いを託した。全て新鮮で希望に溢れているはずだった

「高校生になれば…きっと」

毎日、毎日、勉強をして、
塾で1日10時間を超える夏期講習にも
耐えた。

「高校生になれば、きっと」

そう願っていた彼女は
晴れて第一志望の高校に入学した。

高校に入り、彼女の環境は
色々と変化した。
1番大きい変化は小学校、中学校と
ずっと一緒にいてくれた
友人とクラスが離れてしまったことだった。

新しい環境。
新しい人間関係。
新しい生活。

全てが新鮮で希望に溢れていた
はずだった…

少女漫画やドラマで見ていた
高校生活とは程遠く、
現実は、慣れない出来事に
追いつくのに精一杯だった…

中学より難しくなった勉強。
大量の課題。慣れない学校行事や伝統。

それでも、高校生活を楽しみたいと思い
新しい部活に入部した。
同じ学年の女子も多かったため、
新しい友達が作れるかもしれないと
彼女は
期待に胸を膨らませていた。

時間の経過とともに
少しずつグループが出来はじめた。
人数が多かったため、自然な流れだとも
思っていたのだが…
少しトラブルも見えはじめた。

グループ内の人間関係で
少し困っていると、ある女の子が
悩みを打ち明けてくれたのだ。

心配になった彼女は
双方の話を聞いた。
話を聞いていくうちに、
それぞれの意思のすれ違いにより
間に溝が生まれたのかもしれない
と感じた。

そのため、当時の彼女は、
互いの意思を尊重した上で
両者の仲を修復したいと思っていた。

それぞれが、お互いのことを思っての
行動だったのに…
ボタンを掛け違えたみたいに
ズレていくのを見ていられなかったのだ。

そして…次第に相手と自分を
混同していった…

相手が悩んでいるなら
自分も同じように悩むことで、
相手の気持ちに寄り添っている
つもりでいたのだろう。

気がつけば、彼女は
自分をどんどん追い込み
身体を壊していった。

でも、彼女はそのことに
気がついていないようだった…。

勉強、部活、人間関係…
様々なことが積み重なって
容量オーバーになった彼女に
新たな悪口が浴びせられた…

「なんか、臭くない?」

それが、彼女に向けてだったのか
他の出来事だったのか、
未だに彼女は、わからない。

でも、高校時代の間、言われ続けた
その呪いは、
彼女から生きる意味を奪った。

「私の存在が、周りに
迷惑をかけてしまうのだろうか?
私が存在しない方が
良いのではないだろうか?」

当時の私は、常にその想いが、
消えなかった…

自分の存在を消したい
と願っていた彼女は、
私のことだ。

私は今まで、
自分自身を否定しながら生きてきた。

時が傷を癒してくれるよ。
どんな過去でも、意味があるよ。
過去の自分があってこそ、
今の自分があるよ。

学生時代の私がよく
見かけていた言葉たち。
心の支えにしようとしていた
言葉たち。

そうだね、そうだと思う。
私は、過去の自分が頑張った証を
消したくはないから
そう思いたい。

でも、もし、こんな体型でなければ、
こんな容姿でなければ、
こんな体調じゃなかったら…って
何度も何度も思っている。

…そして、どんなに願ったとしても
過去は変えられない。
私は、この私で生きていくしかない。

それでも、いつも考える。あの時、どんな行動をとれば良かったのか…

身長が伸びて、少し痩せて
健康に気をつけて、
お気に入りの香水を身にまとった
今の私。
体調は未だに不安定なままだ。

なんだかんだ生き抜いて
社会人になって…

それでも、いつも考える。
あの時、どんな行動を
とれば良かったのか…

私は自分と相手との距離感を
間違えていたのだろうか…

「自分を保てる距離で相手を支える」

当たり前のようで、
当時の私には難しかったことが、
分かっただけでも収穫だろうか…?