物語の一部になるのが夢だった。一般的に「可愛い女の子」じゃなくても。

1000円カット。終わったあとに大きくて騒々しい人間掃除機で身体中を吸われるのが嫌だったけれど、それ以外は全てが完璧だった。あそこで髪を切られている私は髪を切られている物体でしかない。客に人格を与えるのはプラスαのサービスだから。

「お仕事何をされてるんですか?」が怖いのだ。私は演劇やっている。俳優の女である私はいわゆる女優で、私の容姿はなんというか女優という言葉でイメージするようなものではないから、なんだか感じなくていい後ろめたさでいっぱいになってしまって咄嗟に「あ…普通に…あの…事務?みたいな…?」なんていう嘘をついてしまう。本当は事務って何をする仕事なのかすらちゃんとわからない。だからうまくフリもできなくてどもってしまう。そういうところも「女優」らしくなくて心底嫌になる。

とはいえフリーランスで活動する私にとって私は商品であり、私という商品を売る営業マンでもある。商品のことは一番よく知っているつもりだ。私は一般的に可愛い部類ではない。子どもの頃からずっと。浅黒い肌、一重の小さい目、筋肉質でガッチリした身体。早い段階でピンク色も、フリルも、似合わないことがわかってしまった。黒い服とか、ズボンばかりを身につけていた。メイクを覚えてファンデーションを塗ってアイプチをして骨格診断で自分に合った服を着てみても、世間一般的に可愛いとされる女の子とは設計から違ってた。小説が好きで10歳の時に演劇を始めた。物語の一部になるのが夢だった。容姿の美しい人間が多い職業だ、ということに気が付いたのはもうどうしようもなく舞台に立つことの魅力を知ってしまった後だった。

物語の一部であり続けるためには商品を売り込まなければいけない。自撮りを覚えた。自撮りは最高だ。フィルターを通せば限りなく自分に近いのに少しずつ全てが良くなった理想の私が画面に映る。自撮りをSNSに載せるとそれを見て劇場に足を運んでくれるお客さんも増えた。嬉しかった。匿名で「実物と全く違う写真を載せて恥ずかしくないんですか?」というメッセージが届いたこともあったけど、なんとも思わなかった。ハンバーガー屋さんの新商品写真はいつも実物の1.5倍大きいし、残飯の写真をインスタグラムに載せるカフェはないからだ。当たり前のこと。

もうこれなしでは生きていけない!みたいな存在になりたかった

だけど、私、本当は「汚いけど美味い店」になりたかった。外装も内装も盛り付けすらもぐちゃぐちゃだけど、口に入れたら天下一品!もうこれなしでは生きていけなくなってしまう!みたいな存在。でも、そんなの、どんなインスタ映えより難しい。

どっちつかずの私は、なんだか、空いた時間にフラッと入って時間を潰してそこそこ快適だったけど出たら店名も忘れたしわざわざ検索もしないかなってお店みたいになった。たくさん予定が詰まってるときとか、人が多くてちょっと疲れちゃったときとか、そういう使い勝手のいいお店は便利で良い。でも、街から人がいなくなったら?比喩でもなんでもなくそうなってしまった。コロナウイルスの流行だ。

あっという間に外に出られなくなって、集まれなくなって、演劇ができなくなった。ひとりぼっちで何もしていない時間が増えると、やりたい事をやってきたはずなのに、なりたい者になろうとしてきたはずなのに、それがいつのまにかやるべき事に、なるべき者に、やれる事に、なれる者に変わっていたことに気付いた。自分だと思ってたものは自分だと思って欲しかったものだった。

忘れたふりをしてた。いつでもなんにでもなれると、知ってたのに

なんだかあたふたと、自分にも他人にも優しくなれないままで数ヶ月が過ぎて、ふと省みたら私の持ち物は私自身だけになっていた。可もなく不可もない空きテナント。もうなんかこんなに一瞬でなにもかも崩れ去るなら、これからは他の誰からでもなく、私が私を最高だと思いたかった。そして、私はまず、子どもの頃になりたかった女の子になる事にした。年齢も骨格もパーソナルカラーも体型も全部無視してピンク色とか、フリルとか、高い位置でのツインテールとかを好きなだけやった。すると、鏡の中の私はフィルターを通さなくてもずっとなりたかった女の子だった。視界が開けたような気がした。なんだ。顔なんか、体型なんか、関係なかった。容姿なんかよりもっとどうしようもない自分の問題だった。いつでもどんなでもなんにでもなれる事ずっと知ってたのに、忘れたふりをしてたからだった。

気持ちの赴くままにピンクやパステル、キラキラとした可愛いものを集めていたら、身につけるものがユニコーンのモチーフのものばかりになっていることに気が付く。いつのまにか私の中でこのツノの生えた気高い伝説の生き物は「自分のために自分の好きな自分でいる」ということの象徴になっていた。私は何歳になってもずっとユニコーンにまみれていたい。そして、いつか私もユニコーンになりたい。誰かにとっての。

私は今日も肩にユニコーンのぬいぐるみを乗せてお出掛けをする。好奇の視線にも盗撮にも気づいているけどどうでもいい。人生で一番可愛い私を好きなだけ見てくれ撮ってくれ。ピースしてやろうか?