【今回読んだエッセイ】

行為の最中、もう堪らなくなって、「好きって、言って」と彼に言うと、彼は間髪入れずに「好きだよ」と言った。うん、私も好き。大好き。私は堰を切ったように、その言葉だけを繰り返していた。その夜が最後だった。

優しい嘘に騙されるがまま、その手のひらで踊っていたかったのよ

私たちはどうして自分が言った言葉を好きな男にも言わせたがるのだろうか。

ニノマエさんのエッセイ「優しい嘘に騙されるがまま、その手のひらで踊っていたかったのよ」を読んで、初めて会った夜、バス停まで迎えに来てくれた彼がどんな表情をして待っていんたんだろうと想像をしながら読んでいた。

恋をするにあたって、「セフレ」と言うものは非常に身近なものだと思う。

始まりは、ただの好奇心だったのに

私も過去に経験がある。
長年ずるずると付き合っていた恋人に浮気ばかりされて嫌気がさしているのに、別れ方すら分からなくなっていた時だった。
仕事で出会った人に少し興味を抱いた。
「お茶をしましょう」と誘ってもらい、最初は少しの好奇心で会った。
もしかしたら、私は恋人との現実から逃げたかっただけかもしれない。
別の男性と二人でお茶をする。それくらい良いじゃない。そこからの始まりだった。

初めて二人で会ったその日、キスをした。私は浮気ができない性質で、好きになるとその人しか見えなくなってしまう。たった一度のキスから、私は恋人と別れようと決めた。たとえその人と付き合えなくても、新しい恋に走り出したかった。

互いの気持ちを確認する「答え合わせ」はなかなかできない

「好き」と伝え合う前に体を重ねてしまうと、その後に互いの気持ちを確認し合う「答え合わせ」は何故あんなに難しいものなのだろうか。
恋人と別れたことをなるべく重たく言わず、それでもちゃんと意味があるように伝えるのはとても難しかった。「あなたとキスをしたことで、あなたのことが好きになって、あなたと付き合いたいと思って、恋人と別れてきたわ」そんな「答え」、言えるわけがない。
彼には大切な人がいることも、知っていた。

「答え合わせ」で2人の「答え」が合わないことそのことを分かっているのに関係を辞められない私、何も気づかないふりをする彼。
「答え合わせ」を早めにするか、しないかだけのことだけど、一度好きになってしまったら目の前にある答案用紙をこの手でビリビリに引き裂いて、問題すらなかったことにしていた。

彼とキスをする最中に「好き?」と聞くと、彼は「言って欲しいの?」と聞き返した。
彼が私のことを好きかどうか、自信がないから聞いたのに。
しばらく無言になった後、諦めかけた瞬間に「好き」とまるで本音を言うようなトーンで言われた時、私は嬉しかった反面そう言わせてしまったんだなと感じた。
あれは「好き」のおうむ返しだったんだと今なら思える。

曖昧な二人の関係 本当の「優しさ」ってなんだろう

本当の優しさとはなんだろうか。
私とは「答え」が違うことを彼が正直に伝えることなのか。
「答え合わせ」を放棄することなのか。

いつだって私には模範解答がある。好きじゃなくても言ってくれたら良いのにという解答。
彼が私のことを好きじゃないなら、こう言って欲しい。
「ごめん、一緒にいて楽しいけど付き合うのは別かな。本当にごめんね・・・」

でもね、今まで自分が求めていた模範解答の言葉を返してくれた人なんていなかった。
自分が求めるものよりも明らかに雑で愛のない言葉しか返ってこない。
私たちの想像はいつだってドラマと漫画の世界の理想の台詞。
そう、こっちが欲しい答えなんて絶対にくれないのだ。
私の恋の答え合わせは、かなりの時間をかけた結果、終止符を打った。

ちゃんとフラれたにも関わらず、その後もどんな時も返信をくれる彼に甘えて何度かラインをしてしまったけど、ラインをするたび自分がただ傷ついて滑稽なことに気づいた。
彼が返信を返すのも優しさだと思うし、返さないのも優しさだと思う。
惚れてしまった私たちはどんな行為も彼の優しさなんだと思っていたい。

好意はすぐには断ち切れない 時間をかけて諦めていく

そして私ができる彼への最後の優しさは、もう二度と連絡をしないということなんだろう。もうこの恋を終わらせることしかない。
恋を終わらせることが、自分のできる優しさだと気付けるのは、彼への「好き」の鮮度が落ちた時だった。
100%で好きなうちは、諦めることなんてできない。

いくつになっても恋とは回答のない問題集だ。

優しさを思い出して、切なくなる夜があっていい

ニノマエさん、そして今このエッセイを読んでいて自分の恋と重なった方へ。
恋の終わりは自分から終わらせるもの以外、納得のいくものなんてないのだと思います。どんな方法で振られても諦めなんてつかない。
それならせめて彼が自分に見せてくれた「優しさ」を大切にしていこうと私は思います。
「優しさ」という愛に嘘はなかったと思います。
そう、嘘はなかったと思いましょう。

振られたからこそ、いつまでも大切に愛おしく思える恋なのです。
あの人の優しさを思い出して切なくなる夜があっていい。そんな恋に出会えたことをいつか心から幸せに思える日がくるはずです。
その時まで、この胸の痛みを大切にしていきましょう。

◆読んだひと 笛田サオリ

1982年1月24日生まれ 鎌倉市出身
音楽家・文筆家・アクセサリー作家として活動。
女性が心の中に秘めてる誰にも言えない想いを音楽や言葉を具現化する。

2004年 作詞家としてメジャーデビュー
2009年「愛とか夢とか恋とかSEXとか」の誕生をきっかけに“さめざめ”の活動を開始。
2012年 シングル『愛とか夢とか恋とかSEXとか』でビクターエンタテインメントよりメジャーデビュー
2014年 ディスカヴァー・トゥエンティワンから初の書籍「誰にも言えない恋ばっか」を出版。
2015年 インディーズ回帰作「HのつぎはI」をリリース発表
2019年 オリジナルフルアルバム「ネオフューチャーメンヘラ」リリース。
      10周年にちなみ10都市ツアーを決行。 
      渋谷WWWでのワンマンライブを成功させる。
2020年 さめざめバンドセット「バナナとドーナッツ」を始動。

http://samezame-official.com