自分の機嫌は自分でとる。
男は、あくまでそのためのツール。
愛情なんか求めていない。若くて綺麗なときに、枯れていたくないだけ
この言葉をモットーに、私は所謂そういうアプリでマッチングした数多の男たちと関係を持つことで、女としての潤いを保ち続けてきた。心を満たすというよりも、ただの欲望を満たすだけの行為。愛情なんか求めていない。21歳、いちばん若くて綺麗なときに、女として枯れていたくない。ただ、それだけ。
とは言いつつも一度だけ、セフレを好きになってしまったことがある。同い年、大学生、そして大のお酒好きという共通点を持って出会った彼は、今まで見たどの男よりも整った顔立ちで、身長も高くスタイル抜群、そのうえさりげない気遣いもできる、完璧な男だった。初めて会った夜、知らない土地の知らないバス停で降りた私を迎えに来てくれた彼を見たその瞬間から、私はきっと恋に落ちていたんだと思う。所謂一目惚れ、とかいう幻みたいなもの。
彼の部屋でのポジションはいつも決まっていた。最初はテーブルを囲んで、彼はローソファ、私はその向かいにある座椅子に着いて、ひとまず乾杯。テレビに繋いだYouTubeで適当なロックバンドのミュージックビデオを垂れ流しながら、ああこれ良いよね、なんて他愛ない話をする。しばらくしてお互いがロング缶を1本空けると、決まって私が「ね、隣行っていい?」と聞く。彼が優しく「いいよ」と頷く。ローソファに二人並んで座ってしまえば、どんどん距離は近付いて、どちらからともなくキスをして、あとはドロドロに溶け合うだけだった。
「セフレ」を実感するのが辛かった。彼に会う度に失恋していた
結論から言うと、彼とはある夜を境に会うのを辞めた。正確には、彼が私を避けるようになり、いつのまにか連絡すら取らなくなってしまった。彼とお酒を飲むのも、彼に抱かれるのも、全部心地良かったけれど、「セフレ」という関係を実感するのが辛かった。彼に会う、その度に私は失恋していた。彼の心が欲しかった。もっとそばにいたかった。
自分の機嫌は自分でとる。
男は、あくまでそのためのツール。
彼も、所詮ただのツールに過ぎなかったはずなのに。
行為の最中、もう堪らなくなって、「好きって、言って」と彼に言うと、彼は間髪入れずに「好きだよ」と言った。うん、私も好き。大好き。私は堰を切ったように、その言葉だけを繰り返していた。その夜が最後だった。
涙ながらに送信したメッセージには、未だに既読ひとつ付かないままで
ね、元気にしてる?お酒も煙草も程々に、だよ。
女の子に優しくしすぎるのも、ね。
本当はヒップホップが好きなのに、いつもYouTubeでロックを流していたのは、私がバンドをしているからだよね。お酒もご飯もいつも電子マネーで一緒に払ってくれて、流石に自分の分は出すよと言っても「財布持ってきてないし要らない」と頑なに受け取らなかったけど、ポケットに財布入れてたの知ってたよ。あの夜だって、私の気持ちに気付いたうえで、その持ち前の優しさで、言ってくれたんだよね。好きだよって。優しい嘘で、いつだって騙してくれていたね。あなたの手のひらで、まだ踊っていたかったよ。
「もうやめようか」と、涙ながらに送信したメッセージには未だに既読ひとつ付かないまま。
ね、私まだ進めずにいるよ。バカだよね。
会いたい。