セフレになって、二ヶ月。
深夜の勢いに背中を押してもらい、彼のラインをブロックした。
恋人と別れてすぐ、埋まらない寂しさを埋めるため、セフレをインターネットで募集した。世の中は本当に、つくづく性欲にまみれている。顔写真も載せず、ただ、女性という表示、そしてFWB(Friend With Benefit)の一言を書き込んだだけで、私のチャットルームはたくさんの男たちからのリクエスト表示で溢れた。
何人とも関係を築くつもりはない。試してみて、身体の相性が良い、気に入った人とだけ継続して<契約>を結ぶつもりだった。そうして最初に知り合い、関係を持ったのが彼だった。
彼との行為で、人生で一番、大切に触られた感覚を覚えた
行為には、その人の本来の姿が現れるという。雑なところ、独りよがりなところ、女性慣れしていないところ、AVが唯一の教科書であろうところ。実際に私も、今まで関係を持った人たちのベッドでの言動ひとつひとつに、その人特有の<癖>を感じていた。
彼は、必要以上の話はせず、どちらかといえば無口で無愛想なタイプだった。しかしベッドの上での彼はとても優しく、彼との行為で、私は今までの人生で一番、女性として大切に触られた感覚を覚えた。それは、かつて自分に怖いほど依存し愛してくれた過去の恋人よりも繊細な手つきで。彼が極端に上手なだけ?私のかつての相手が下手だっただけ?いやそんなこと、べつにどっちでもいいや。思考も身体も、ただただその夜、彼の手に、口に、身体に、言葉通り溶かされていた。
セフレとして出会った以上、私も身体以外のことを望むつもりはさらさらなかった。深夜に会えば、ただただお互いの身体を満たし、朝を迎えて別れるだけ。ただそれだけでいいと思っていた。
気に入っているのはあなたの身体のこと。そう自分に言い訳する
私は自分をラッキーだと思っていた。好きでもなんでもない、ただ身体を重ねるだけの関係の女を、こんなに優しく扱ってくれるのだから。それがいつしか、彼の身体を求めるのではなく、彼といる時間を求めるようになっていた。彼の腕の中で好きな映画を見る時間を、好きになっていた。時折作ってくれるバナナジュースの青臭さに頬を緩ませ、バイト中にできたという、彼の腕にある火傷の跡を、愛おしそうに、そっと撫でる私がそこにいた。
一度彼に、「君をとても気に入っているから、昨日会ったのにもう会いたいよ」そんなふうにカマをかけた。彼は「こんな男を気に入らないでよ~いい事ないよ~」と、困ったようにはにかんだ。ズキンと小さな痛みを感じた心の中で、気に入っているのはあなたの身体のことなんだから、勘違いしないでよねと、一人言い訳がましく、弱々しく言い返した。彼とこのまま会い続ければどうなるか、自分が一番よくわかっていた。
嫌いになったわけじゃない。引き返せるうちに引き返しただけ
傷つく前に、終わらせる。めんどくさい女になる前に、終わらせる。
そう決めて勇気が出せた夜、彼のラインをブロックした。
いつ終わってもいい関係を望んだはずが、いつの間にか、この夜が最後じゃないのかと、終わりを恐れるようになっていた。
嫌いになったんじゃないんだよ、飽きたわけじゃないんだよ。引き返せるうちに引き返しただけ。私との連絡が途絶えて、少しでいいから残念だと、惜しいと、思ってほしい。私と途中まで見たホラー映画の続きを一人で見ながら、私を、思い出してほしい。あの時のバナナジュース、ほんとはちょっと苦かった。
言葉たちは届かないまま、彼との夜はスワイプ一つで消えた。