私は「好きな人のどこが一番すき?」って聞かれたら、それは「今まで一切手が加えられていない今にも繋がりそうなモサモサ眉毛」と答える。
あともう一つ挙げるとすれば「絶対に私に手を挙げたりしないこと」。
私は過去の男の人に殴られたり、ドアに指挟まれたり、とにかく“男の人は優しい”という概念がそもそもなかった。父親もDV気質で、地獄絵図のように家族崩壊したし、初めて付き合った人には殴られたし、もっと末期なのは、私は「殴られてもいいから、会いたい」と思ったくらいその人を好きになっていたことだ。もう救い様がなかった。
普通かもしれないけど「殴らない人」は、私の人生の中でとても希少
だけど今の彼氏は、私が何をしても私を殴ったりしない。一度、私が彼にキレてしまい、少し取り乱して、彼に向かって枕を投げたことがあった。この時、彼の動作が止まった瞬間があった。私はこの時「あ、彼はきっと私に仕返しするに違いない」と思った。ここで「私はまた、好きな人から殴られてしまうんだ」と覚悟した。
けど、彼は絶対に私に手を挙げることがなくて、情緒不安定になっている私をとっさに抱きしめて「なんでそんなに子供みたいなのー」と言って笑うだけだった。
彼は、私を殴らない。
私はこの時、とても感動した。
普通のことかもしれないけど、“殴らない人”は私の人生の中ではとても希少なのである。それゆえ感動さえもした。さっきまで怒っていたのに、次は泣き出す私を見て、彼は「俺が悪かった。俺が悪かったから、ごめんね」と必死に私をあやす。
いや、泣いているのは感動しているんだよ、悲しいんじゃなくて嬉しいんだ。きっと彼にはわからない。
彼といると「温かい」けど、時々辛くなって逃げ出したくなる…
彼の当たり前が、日々温かすぎて、少し涙が出そうになったりする。人生が全く違うもの同士なんだって、日々痛感する。
そう感じる度に、目の前にいるのに、寝ている時は半径20cm…いや、もう重なって寝ていることもあるから+20cmくらい、それほど近くにいる人なのに。どうしてだろう、とても遠くの人に感じてしまい、静かに泣いてしまう夜がある。目の前にいる距離と、時々彼を見ていて感じてしまう距離の隔たり、この矛盾にひどく切なくなってしまう。
こんな話を彼にしたらきっとクエスチョンマークいっぱいの顔で「なんで?」と聞いてきそうな気がして何度もやめた。
これからも多分、人生は全く違うんだろうなと想像してしまう。彼といると、とても温かくて驚くほど私の心は溶けてしまう。これが彼の自然なのだとしたらひどく恐ろしいと最初は思っていた。それと同時に、その温かさに私は少し辛くなったり、逃げ出したくなったりする。
好きな人と自分が歩んできた人生が違いすぎて、私の心は葛藤している
それは、好きな人の人生がとても健全で美しいから。
私が両親が離婚して、家を飛び出して一人ホームレスみたいになっていた幼少期、彼は両親から十分な愛情と教育を受けて育っていた。
彼はよく「俺は自分に自信があるからさ」と言う。これは慢心や自意識過剰、嫌味でもなくて、言葉そのものなんだって、彼の言う姿を見ればわかる。彼の自己肯定感と自尊心は、私の生きてきた過程からは得ることが出来ない。
好きな人の人生がとても健全すぎて、私は時々その眩しさから自分の生きていた泥だんごな日々と重ねてしまい、逃げ出したくなることがある。そして、憧れてしまっている。けど、届かなくて時々苦しくなる。
「ずっと一緒にいれたら」と思いながら、一歩引いて逃げる準備をしている自分もいる。
見た目では一切わからない、誰にも相談できない無言の自分との葛藤。