美容院で髪を切った。
店を出て、軽くなった頭を撫でる。手櫛で梳かすと途中でストンと感覚がなくなって少しだけびっくりした。慣れるまでには時間がかかりそう。

外出自粛もあって、髪を切るのは1年ぶりくらい

私の髪はくせっ毛だ。だから伸びると横に広がって、結ばなければ手に負えなくなる。今朝、起きがけの格好で家の中を彷徨いていると、お母さんが「なんだかイエスみたいだね」と声をかけてきた。私の髪はどうやら神と同じ状態らしい。身に余る光栄だけど、私は神ではなくJD(女子大生)だ。これは流石にいかん、と思って、慌てて美容院の会員証を手に家を出た。

コロナの外出自粛もあって、髪を切るのは1年ぶりくらいになる。染めていた部分も伸びて色が抜けてきて、いい加減に切らないといけないなと思いながらもずるずるとここまで来てしまった。グラデーションカラーだから!だなんて言い訳してみても、どう見ても田舎のヤンキーのようにしか見えない。色のついた部分は全部切ってもらうことに決めた。

溜まっていく髪の毛をみて、家にこもっていた日々の長さを思った

近所の美容院は、自転車で5分ほどの所にある。平成初期の女性たちが笑顔で写る巨大ポスターが目印のこじんまりとしたお店。ドリンクサービスも炭酸泉シャワーもないけど、中学生の頃からお世話になっている大好きな空間だ。
良かった、潰れてなくて。変わらない風景に、胸がいっぱいになる。
席に着いて、ヘナの香りやFMラジオの音に包まれながら山積みの女性週刊誌をパラパラとめくっていると、不思議と心が安らぐ。

「今日はどうなさいますか?」
「ずっと切ってなかったので、ボブくらいまでばっさり切ってもらえますか?」
「ばっさりね、かしこまりました」

いつものおばちゃんは、テキパキと思い切りがいい。迷いのないハサミ捌きが頼もしくて、いつも惚れ惚れと見入ってしまう。腰近くまであった髪の毛はあっという間に肩までの長さになった。
「これでどうかしら?」
「もう少しだけ、お願いします」

もう十分短くなったような気もしたが、せっかくなので欲張って追加で切ってもらう。ケープに落ちて溜まっていく髪の毛を見ながら、家にこもっていた日々の長さを思った。

「またいつでも来てね」
「ありがとうございました」

切られた髪の毛は、溜まっていた不安や疲れも持って行ってくれた

店を出て、軽くなった頭を撫でる。手櫛で梳かすと途中でストンと感覚がなくなって少しだけびっくりした。慣れるまでには時間がかかりそう。

でもその違和感が新鮮で、自然と顔がほころぶ。切られた髪の毛は、知らず知らずのうちに溜まっていた不安や疲れも一緒に持って行ってくれたようだ。自転車を漕ぐ足にも力が入った。