昔の恋人が、職場でスカートを褒められたという。
その同い年の元カノは、わたしと服の好みがまるで違った。当時のわたしはカラフルでカジュアルなものを揃えがちで、隣を歩く女の子はモノトーンで瀟洒な服を気に入っていた。自分で選ばないものばかり選ぶ相手を見ながら、わたしたちはお互いが大好きだった。
大きく違う服の下、ふたり同じ下着を身につけた。
仲の良い恋人同士だったと思う。
もっとも、彼女とわたしは交際の前後もずっと仲が良くて、「恋愛関係」の有無に関係なくお揃いの下着を選んだとして不自然ではないほどなのだけれども。
グレーの、チェック柄の、アシンメトリーの、お揃いのスカート
そして下着の他にもう一着、彼女とお揃いにした服がある。これは恋人同士ではなくなってからの「デート」で買ったもので、仕事を始めたわたしたちは、それぞれ職場にも許されるようなものを手に取ることが増えていた。
互いに服を見繕うと、自分では採らない選択になって面白いふたりだ。それなのに、そのスカートは一緒に好きになった。グレーのチェック柄で、アシンメトリーのスカート。
今も昔も、彼女のありとあらゆる面を愛している。
精神的なものは勿論、肉体的な部分だって。
彼女の真っ白い肌を、曲線的な肉付きを、サラサラの髪を、キュートな背丈を、穏やかな身のこなしを、黒々とした睫毛を、やわらかな肌を、ひんやりとした体温を、大好きでいる。全てを魅力的に演出するものを選びたいと思う。
その中に、お揃いであることに照れる笑顔もある。ふふ、と目を細めるたおやかな笑みが、わたしと同じ服だからだというなら、こんなに嬉しく誇らしいことが他にあるだろうか。
見てくれ! わたしの大好きな友達がこんなに可愛いと!
わたしの好意は思わぬかたちであらわになっていた
布地の重なりが特徴的なそのスカートは、当然わたしのお気に入りになった。彼女の方も気に入ったそうだ。
わたしはシンプルな色シャツをよく合わせた。働く姿を見たことはないのだけれど、彼女の通勤スタイルはもう少し華やかなブラウスかも知れない。
しばらくして、彼女から服を褒められた話を聞いた。
彼女の職場の先輩が、わたしと一緒に買ったものを褒めたのだという。お揃いにしたスカートも、自分は着ないが似合うと言ったスカートも。他意なく褒められて、実は友人と買ったんです、と答えることが繰り返されたらしい。あなたのこと大好きなんだね、と察されたそうだ。わたしの好意は思わぬかたちで顕になっていた。
見られていた! わたしが可愛い友達をこんなに大好きだと!
彼女を愛している自分を愛している
小柄な彼女が静かにドレープを揺らすのは美しい。そしてパタパタと裾を翻して動くわたしも、我ながら悪くないと思う。
似合っているかどうか、自分ではよく分からない。ただ、このスカートを気に入っているのは確かで、気に入っている格好をしているときのわたしは最強だ。魔法の布は、布の下まで大好きになれる。そこに見えるのが彼女とは似ても似つかぬ肉体であろうが関係などないのだ。
わたしは彼女を愛しながら、彼女を愛している自分を愛している。