「痩せて可愛くなったね」
彼にそう言われたあの日から、私は愛されるためのダイエットを始めた。

もっと愛してもらうには、もっと痩せなければならないと思った

2年前、仕事のストレスで30kg台まで体重が落ちた。周囲からはちゃんと食べているのかと心配され、自分でも痩せすぎてしまったと焦るほどだった。

しかし、当時お付き合いをしていた彼だけは違った。久しぶりに私の身体を見た彼は、耳元で甘く囁いたのだ。

「痩せて可愛くなったね。俺、こっちのが好き」

その言葉を聞いてから、私は痩せた身体に執着するようになった。元々体型に自信がなかった私は、彼に身体を褒められたことが嬉しくてたまらなかった。

それから、彼にもっと愛されたいという一心でより痩せた身体を目指すようになった。食事をさらに制限し、ますます体重は減っていった。えぐれるほどへこんだお腹に、くっきりと浮き出たあばら。家族や友人たちは、そんな私を酷く心配した。

それでも彼は、私の骨ばった身体を抱きしめて言うのだ。

「また痩せて綺麗になったね」

彼に褒められて嬉しい反面、私の身体は限界を迎えようとしていた。体力は落ち、頭もクラクラする。でも、もし太ってしまったら彼はどんな反応をするだろうかと考えると恐ろしくて、食べる量を増やすことができなかった。
「痩せすぎだよ」と彼が言ってくれれば、この地獄のような生活から抜け出すことができるのに。そう思う私の気持ちとは裏腹に、その後も彼は痩せ細った私の身体を褒め続けた。

彼の何気ない、優しい言葉。愛されることに体型は関係ないんだ

それから半年ほど経った頃、些細なすれ違いから彼とお別れした。それがきっかけで、私の体重はリバウンドをはじめた。しかし、私の痩せた身体に対する価値観が変わったわけではなく、脂肪のついた自分の身体が嫌で仕方なかった。また誰かに愛してもらうためには、痩せていないといけないのに。鏡を見るたびに、そう思って胸が苦しくなった。

そんな中、私は別の男性と恋に落ちた。彼が私の裸をはじめて見る時、怖くて仕方がなかった。太っていると思われたらどうしよう。そんな恐怖心から「今が人生で一番太っているから、早く痩せないとな」と彼に聞こえるように呟いた。これからちゃんと痩せるから、嫌いにならないでほしいと訴えるように。すると彼は、優しい声で言った。

「どっちでもいいよ」

当時の私には、十分細いとか、今が丁度良いとか、そういう言葉はお世辞にしか聞こえなかった。本当はもっと痩せてほしいに決まっていると思ってしまうのだ。でも、「どっちでもいい」という彼の何気ない言葉は、愛されることに体型は関係ないのだと私に信じさせてくれた。

私の身体は、どんなサイズであろうと、形であろうと、愛される価値がある。そして、誰かに愛されるためではなく、私自身が私の身体を愛しているからこそ、健康的な食事や運動をするのだ。
これからは、ありのままの私の身体を愛してくれる人と一緒にいて、その人以上に私自身が私の身体を愛していきたいと思う。