こんなにもひどいことが続くのか、と思った。フレッシュな社会人1年目だった私に、次々と災難が起こった。仕事がうまくいかない、資格試験に落ちてしまった、同僚と言い争い、彼氏と別れる一歩手前の喧嘩。何か一つ上手くいかないならまだしも、仕事やプライベート全てが上手くいかないとさすがに参る。会社から帰る帰り道、涙が止まらなくて、知り合いに会わないことを願いながら顔をぐしゃぐしゃにして家に帰った。たしか金曜日だった。
「あ・・・そういえば明日、美容院の予約入れてるんだった・・・」こんな精神状態で出かけるのははばかられたし、できたら部屋に引きこもりたかった。私は落ち込むと見た目に全く気を使わなくなる。都会の美容院にオシャレをしていかないなんて言語同断だし、落ち込んでいる状態では美容師と話が続かない。キャンセルしようかな・・・と思ったが、その美容師はそのエリアでは大人気で予約が取りずらく、前日にキャンセルをするのもためらわれたので、重い足を引きずって行くことにした。
ビクビクしながら鏡越しに変わっていく自分の髪を見つめた
「今日髪型どうしますか?」
美容師は明るく声をかけた。
「前と一緒で・・・」
力ない私の声から何かを感じ取ったのか、美容師はこう返した。
「咲良さん、今回も同じ髪型にしてしまうと、3回連続同じ髪型になってしまいますよ。ここは思い切ってイメチェンしてみましょう!」
あまり気乗りはしなかったが、美容師とやり取りした挙句、ロングの髪型を丸みショートに、色を黒からピンクがかった茶色に変えることにした。大幅なイメチェンである。
ロングの髪を切られるとき、とても怖かった。ショートって、かわいい子しか似合わないんじゃないかな。美人を真似た勘違いブスって思われないかな。え、カラー材めっちゃピンクじゃん。上司に怒られないかな。全幅の信頼を置いている美容師だったが、やはり大幅なイメチェンは怖かった。ドキドキ、というよりもビクビクしながら鏡越しに変わっていく自分の髪を見つめた。
都会の真ん中で、足が勝手にスキップをしていた
「出来ました!かわいい~!!」
切り終わり、オイルとワックスをつけてスタイリングをしてもらった自分を鏡越しに見た。すごく、可愛かった。すごく、似合っていた。ショートでも、こんなにキュートなれるんだ。今まで落ち込んでいたのが嘘みたいにテンションが爆上がり、満面の笑みで美容師にお礼を言い、お金を払った。都会の真ん中で、足が勝手にスキップをしていた。「心が躍る」という比喩表現があるが、その表現が今まで生きてきた人生の中で一番当てはまる瞬間であった。髪を切り終わったらすぐ帰るつもりだったのだが、こんな可愛い状態で外に出ないのはもったいないと思い、1人で可愛いカフェを巡った。帰宅後、美容師からBefore/Afterの写真をもらい、Afterの写真を自信満々にLINEのプロフィール画像にした。月曜日に出社すると、みんな可愛いという言葉をかけてくれた。数週間後、私の髪型をインスタグラムに投稿した美容師さんから、「咲良さんみたいな髪型になりたい」というお客さんがいっぱいいたことを知った。嬉しい以外の何物でもなかったし、自分の容姿、そして自分自身に対しても自信が持てた気がした。
自分の髪がきれいになれば、笑顔になれる
女だから、いい意味でも悪い意味でも容姿で判断されることが多い。多くの女性が嫌というほど体験してきたことだと思う。自分の容姿にコンプレックスを持っている人もいれば、美人の顔でなくて実力で判断してほしいという意見もよく聞く。しかしやはり同時に、私たち女にとって容姿と自己肯定感は切り離せないものであり、容姿をけなされれば自己肯定感は下がるし、逆に褒められれば自己肯定感は上がる。だからこそ言いたい、落ち込んでいるなら、自己肯定感が低いなら、美容院に行けばいいのではないか、と。
美容院には、たくさんの可愛いが溢れている。美容院では、私たちは何にでもなれる。美容院には、たくさんの自己肯定感爆上げ要素が詰まっている。たとえカットだけでも、カラーだけでも、シャンプーとブローだけでも、私たちは自分の髪がきれいになれば、笑顔になれる。「少年よ、大志を抱け!」「そうだ、京都に行こう」これらの有名なキャッチフレーズを借りるとすれば、私は「そうだ、女の子達よ、美容院に行こう!」と言いたい。男尊女卑のこの社会で、美容院は女の子が自分のことを好きになれる、数少ない場所の一つだと思うから。