あれは大学4年生の冬。バイト先の上司と恋に落ちるという、ありがちなストーリー。実はバイトを始めた当時からずっとイケメンだなあ・・・と心の中では思っていてでもあくまでも仕事上の付き合いでしかない私たちは、仲良くなることもなかった。
自暴自棄になっていた私にとって、恋愛はただのゲームに過ぎなかった
ある日のバイト終わり、バイト仲間でたまたま飲みに行くことになった。小悪魔キャラだった私は、酔っぱらって彼の隣にぴったりとくっついて離れなかった。ちょうど、16歳からあこがれていた男性とセフレ関係になってしまい、自暴自棄になっていた私にとって、恋愛なんてただのゲームに過ぎなかった。気になった人を落とせるか。そんなゲームでしかなかった。
その“ゲーム”は見事に私の勝ちで、二次会へ向かうみんなと逸れたふりをしてホテルへ向かった。“なーんだ、案外楽勝じゃん”心の中ではそんなことを思っていた。
一夜を共にしてから一週間くらい過ぎたとき彼から話がしたいと呼び出された。バイト後に彼の車に乗り、ラブホテルへ向かう。
ラブホテルに入り、来る途中のコンビニで購入した缶ビールをあける。彼が重い口を開いて言ったのは“俺、お前のこと好きになっちゃたんだけど”。
思わず“私も”と返した。
一緒になりたい。いつの間にか、狂おしいほどに愛し合っていた
それから、彼と私の不倫は始まった。私たちは職場が同じこともあり、ほぼ毎日一緒に過ごしていた。
そして、就職が決まっていた私は3月になったら上京する。タイムリミットもあったがゆえに、私たちは一分一秒でも長く一緒に過ごした。
そんな関係が一か月ほど続いていつも通りバイト後に二人でご飯を食べていたとき、彼が言った。“俺の子供、育ててくれる?”
なんの理由もなく始まったこの関係。でもいつの間にか私たちは、狂おしいほどに愛し合っていた。全てを投げ出してあなたと一緒になりたい。そんなことを思って枕を濡らす夜もあった。
でも、女の方がやっぱり現実主義で心の中では“もちろんだよ”って、あなたの子供なら私の子供じゃなくてもいとおしいもの。ってそう思っていたけど、そう伝えてしまったら、本当に私たちは戻れなくなってしまうこともわかっていた。
だから、私は言ったの。“10年後も同じ気持ちだったら、一緒になろう”
あなたはただ、うんってうなずいたよね。
冬になるとやっぱり思い出すの。雪道とか、お揃いのパーカーとか
それから数カ月して、就職と同時に上京した私。
最初は寂しくて仕方なかったし、あなたに会える日を楽しみに仕事も頑張っていたけどだんだんと自分がいけないことをしていたんだってことに気づいた。
だから、もうこんな関係やめよう。って言ったのは私の方からだった。物理的に距離があった私たちは、別れるのも簡単でそれ以来連絡をとることも、当然会うこともなくなった。
あれから7年もたって、私はすっかり東京の女になったしそれなりに恋愛もしてきたけど、冬になるとやっぱり思い出すの。あなたと一緒に歩いて帰った雪道とか、お揃いで着ていたパーカーとか。
LINEのアイコンで見るあなたの子供はすっかり大きくなったよね。あの時、一緒になりたがっていたのはあなたの方だったのにすっかりいいパパになっちゃってさ。
あなたは私と一緒にいながらもちゃんと奥さんへ感謝していたし、子供への愛情は揺るがなかったよね。
そんな愛情深いあなただから、私は恋をしたんだと思う。もう連絡することもないし、会うこともないだろうけど
あなたと交わした約束を私はこれからもずっと忘れないんだと思う。