私はいつも自分に自信がなく、人の目を気にして生きている。それ故、髪型も服装もいつも無難なものを選ぶ。街を歩けば同じような服装の人とたくさんすれ違う。所謂「量産型女子」だ。そのスタイルが可もなく不可もなく、悪目立ちすることもないと思っているからだ。当然個性なんてない。つまらない女なのだ。

美容師さんの熱意に負け、モデルの大役を引き受けることになった

二十歳の夏、地元の駅で男の人から声をかけられた。ナンパかと思ったが違った。どこかの美容師さんだった。彼は開口一番に「ヘアコンテストモデルになってください!」と言ってきた。ヘアコンテストモデルと言うものがどういうものかピンと来なかったが、話を聞くとコンテスト会場で競技時間内にヘアカットとスタイリングを行い、そのクオリティを競うものだと言う。あがり症で目立つことが苦手な私は人前に出ることが得意ではないし、ましてやどんな髪型になるかはその時のお楽しみだなんて気が気ではないと思い、一度は断ったのだが、美容師さんの熱意に負けて結局その大役を引き受けることになったのだ。
コンテストの前日、カラーだけは事前にしておくとのことで美容室に向かった。そこでパーソナルカラー診断と言うものをしてもらい、たくさん相談して自分のタイプに合ったカラーを選んで貰った。私はイエベなのでオレンジをベースにビタミンカラーを何色か入れることになった。人生で初めてブリーチをし、染め上がった髪は今まで見たことがないくらい明るく個性的で、鏡を見てぎょっとした。 まるで自分が自分ではないみたいだった。

覚悟を決めてカットに挑んだ。普段なら不安でも、むしろ心地よかった

そして迎えたコンテスト当日、会場には可愛い女の子達がうじゃうじゃしていた。美容師さんが持ってきた衣装がこれまたなんとも奇抜で露出度が高い。急に自信をなくして今すぐ辞退したい気持ちでいっぱいだったが、ここまで来て逃げるわけにもいかない。もうどうにでもなれと覚悟を決めてカットに挑んだ。目の前に鏡はなく、どのくらい切られているのか、どんなヘアスタイルになっているのか全然分からない。普段なら不安でいっぱいになるところだが完全に雰囲気に飲まれてしまい、むしろ心地よかった。会場は熱気と美容師さん達の緊張感に包まれていた。
結果的に惜しくも入賞はできなかった。コンテストが終わり鏡に映った私の髪はオレンジ色のベリーショートだった。それはもう立派なひとつの作品として完成していた。個性は強めでかなり奇抜だったが夏にぴったりで悪くはない。

お直しを断った。少しだけ殻を破ることができたような気がする

美容師さんに「お直ししてから帰りますか?」と聞かれたが私はそれを断った。せっかくのスタイルだ。しばらくそのままで過ごそうと思ったのだ。新しい髪型も髪色も落ち着かなかったけど、イメチェンをするには最高に良いきっかけとなった。ずっと個性なく生きてきたので周りからは大変驚かれたし、道行く人にもじろじろ見られたがそれももう気にならなかった。堂々としていることに自分でも驚いた。おかげで少しだけ殻を破ることができたような気がする。

髪に合う洋服を選んでみたり、メイクも変えてみたり、おしゃれに対するわくわく感も楽しいものだなぁと思う。つまらない女から一歩卒業できたのだ。2015年の夏、あの時私の髪にかけられた魔法は今もなお解けていない。