13才の私が夢中になったのは、恋でも勉強でもなくファッションだった。
お気に入りのワンピースがひとつあるのもいいけど、1日たりともコーディネートの妥協はできない。とにかくたくさん試して、自分に似合うスタイルを見つけたかった。

流行には敏感な方。私史を語るのに、当時の髪型ってとても重要

28才の私が探しているのは、自分史上最高のシルエットだ。
頭のてっぺんからうウェストのくびれ、そして足先まで上品さをまといたい。
その仕上がりを左右するのが、対面で一番目につく髪の毛だ。
特にマスク生活が常になった今日ではなおさら。

考えてみれば私史を語るのに、当時の髪型ってとても重要だ。
だって流行には敏感な方だったのですもの。

中学生になるまで、髪を伸ばしたことがなかった。
イギリス王室の男の子が半ズボンしか履かないようなもので、家のルールで大人の女性になるまではショートカットがよしとされていたのである。
他の家庭がそうでないと知った時の衝撃といったら。思春期ということもあって気づくや否や、毎月母と通う美容室を拒んだ。
ティーンエイジャーの駆け出しは、伸ばした髪の顎下から毛先にかけてはすき、細眉と相性のいいアシメの前髪を選んだ。

高校生の頃、流行った少女漫画がある。
まさにむずキュンの真骨頂といえる作品で、クラスの人気男子と地味子が恋に落ちる。
主人公の真っ黒ぱっつんのロングヘアに憧れ、真似た高校3年間は最も髪に気を遣った。
重く揃えたストレートの艶には丁寧なブローが効果的で、タオルドライ後のケアを真剣に悩んでいた時期が懐かしい。結論、細く柔らかい髪質には夏はミルク、冬はオイルというところに収まった。
当時のボーイフレンドを風早くんに重ね合わせ、なかなか進展のない淡いふたりを楽しんでいたのである。

髪が大学生の自分を解放してくれた。行動はヘアスタイルに表れた

大学生になった自分を解放してくれたのは髪だった。
進学を機に実家を出た私の世界は、とてつもなく広がった。
行ったことない場所、初めて出会う人々、誰にも干渉されない自由な時間。
新入生の瑞々しさを実感するため、まずは王道のミルクティブラウンにゆるふわパーマのロングヘア。
ややこなれてくると色を抜いたマッシュヘアで遊び、もっと刺激が欲しくなればミディアムの毛先はまっピンクのグラデで冒険した。
思い返すほどに昔の自分の行動はヘアスタイルに如実に表れていたようで、他人事のようだけどその関係性は研究テーマになりそうよ。

聖地・原宿を闊歩した少女はOLになって、オフィス街を闊歩している

では、今のヘアスタイルが教えてくれる私は?

おしゃれに目覚めた少女にとって、手の届くものに溢れる原宿は聖地だった。
少女はOLになって、オフィス街を闊歩している。
彼女はプロのメンテナンスを怠らず、月1のトリートメントが仕上げる暗いマットのミディアムヘアはまさに28才の風格。
ファストファッションが入りきらなかったクローゼットは、今ではかさも色合いも等身大の自分に落ち着いた。素敵なグレーのコートの彼の隣は、洗練されたコレクションを持つ彼女しか歩けない、かもね。

あの頃の原宿で私たちは、夢中になって理想の自分を探した。
あの頃の原宿を知っている私たちは、いいものを選ぶ大人になった。