「面白いぐらいに雨女だね」
と笑う彼は、いつもどこか呆れているようで、だけどやっぱり可笑しそうな顔をする。
私じゃなくて彼が雨男なのかもしれないのに。

オシャレが大好きで身なりに人一倍気を遣う彼は、お気に入りの洋服も靴も濡れてしまうような雨の日に出掛けるなんて正直気乗りしないだろうが、それでも私の隣を歩く時は楽しく振る舞ってくれる。
まさしく、彼氏の鑑。…やっぱり服が濡れるのは、嫌そうだけど。

私と彼を繋ぐもの。音楽、古着、お酒、旅行。食の趣味はとことん合わないけれど、それ以外は、いつも決まって「同じこと考えてた!」と声を合わせる。彼の好きなものはほとんど私も好き。私の好きなものは彼もだいたい好き。合わせているわけではなくて、そういう感覚がとにかく似ている。前世は双子だったのかな。まさか恋人同士になるなんて、思ってもいなかっただろうね。

恋人同士でありながら、とても趣味の合う友人でもある二人

こういうわけで、とにかく彼とは何をするにも一緒。

お互い一人で行動できるタイプではあるけれど、私がライブに行くとなると「僕もそのバンド好きだし一緒に行こうかな」となるし、彼が服を見に行くとなると「私もそこの古着屋さん気になるから行ってみたい」となる。「あそこの居酒屋行きたいなあ」とぼやくと、「じゃあ今から行こう!」とすぐに動き出せる行動力もある。

私たちは恋人同士でありながら、とても趣味の合う友人でもある。「好き」という感情以外に、こんなにも重なり合う部分がたくさんあって、私と彼はよく周りにもお似合いカップルだと称される。誇らしい。そんなことは自分たちが一番知っている。

ところが、何をするにもよく雨が降る。お天道様だけは、どうにも味方につけられない。

はじめて二人で大好きなバンドのライブを観に行った日も雨だった。
電車を数時間乗り継いでフェスに出掛けた日なんか、暴風雨でびしょ濡れになって散々だった。

高速バスに乗って少し遠くまで日帰り旅行に出かけた日も、天気予報は晴れだったのに途中通り雨に降られて大変だったっけ。
バスの中、「本当に雨女だね」と言って外を指差す彼の呆れ顔を今でも鮮明に思い出す。

彼の誕生日にも雨が降って、その頃には既に二人とも開き直って傘で遊んだり、スキップしたりして。雨の日の楽しみ方まで覚えてしまった。

あの日も雨だった。憂鬱な雨の日でも一緒にいられれば特別だったのに

どこに行くにも雨。髪の毛も湿気でうねうねしちゃうし、頭は痛くなるし、雨って本当に嫌いなんだけど、どうしてか憎めないよね。
いつも雨だから、逆に雨じゃないと変な感じ、しちゃうしね。

そうだ、私たちが別れた日。あの日も雨だった。
あの日、あんなにくだらないことで喧嘩をしていなければ、私たち今でも一緒にいたのかな。

好きな音楽を二人で聴いて、好きな古着屋に二人で出かけて、好きな居酒屋で二人で呑んで、たくさんの「好き」を二人で共有し合って生きていたのかもしれないね。

あんなに憂鬱な雨の日だって、一緒にいられたらそれだけで特別だった。傘を差しているせいで出来るもどかしい距離も。

今日もあなたと、スキップで、じめじめした雨の空気の中を走り回って、「やっぱり雨女だね」と笑うあなたにとりあえず「ごめん」と謝って、そこからデートが始まる、そんな一日を今でも過ごせていたら。

雨の日は、今でもそんなことを考えてしまう。

あなたみたいな人が今でも理想だけど、あなたともう一度恋をすることはきっともう二度と、ないと思う。
だけど、そうだな、たとえば二人がもっと大人になって、どこかで再会して、その日がもし、雨だったら。なんだか運命感じちゃいそうね。