マスクの処世術。スッピン送迎で「この世にマスクがあってよかった」

一昔前、beforeコロナの世界観では「マスク女子に騙された~」とかいう失礼極まりない台詞が、幼い男子達の間で交わされていた。露出しているのが目元だけだと、女子の顔面偏差値が測れないという主張だそうで。ひどい話だ。

でも実際女性の中では、風邪をひいてもいないのにスッピンだからという理由でマスクをつけたり、人に注目されたくないというコンプレックスでマスクを着けざるをえなかったり、そんな処世術が存在した。実際私もスッピン園送迎をキメるとき、「この世にマスクがあってよかった(にっこり)」と思うことは元々あった。

それが今ではコロナ禍となり、老若男女横並びにマスクをつけて暮らす毎日。メイクバッチリのママ友も、そうでない日の私も。さらには肌映りの良い色のものを選んだり、素材にこだわったり、ついに小顔に見えるマスクまで選べるようになるなんて……。企業の信念というか根性というか、日本人の逞しさすら感じる。

振れ幅が極端な私。どうして見えかたにそこまで敏感になるのか

マスク会食とかいう言葉も生まれた。マスク生活の狭間で飲食をする姿は、もはやイスラム教徒の女性が信仰上の理由で肌を覆う布を着けて暮らしているかの様(ニカブと言うらしい。そもそも口を覆って暮らしていた彼女達は、感染リスクが低かったりするのだろうか)。

そういえば、数年前にはファッション誌に「スッピン隠しにだて眼鏡」みたいな文面もあったような気がする。最近でもママ雑誌で「疲れて見えない!ゆるっと1つくくり特集」的な誌面を見かけた。マスク、だて眼鏡、1つくくり……私達は誰の視線から逃れる為に、マスクやだて眼鏡をするのか。たかが1つくくりにしたって、どうして見えかたにそこまで敏感になってしまうのか。

私の場合だが、メイクしたりヘアセットしたりって、めちゃめちゃ気分に左右されやすい行為で。毎日決まった時間をそこに割ける、強靭なメンタルを持ちたいのは山々なのだが。残念ながら私の気分は、日によって大きくムラがある。バッチリメイクの日と、スッピンマスクの日、その間には極端に振れ幅がある。

私がもし主婦じゃなかったら?働いていたら?とも思うけれど、一時期ワーママをしていた時ですら、顔面にはわりと日によって落差が存在したのだった。

睫毛なんかは極端で。毛の先の先まで神経が行き届き、くるっとカールがキマっている日と、朝のドタバタで時間切れ、寂しい素睫毛のまま出勤する日と。マスクを着けたとて露出する、どうしたって他人に見える範囲ですらそうなのだから、ベースメイクは言わずもがなである。

私が最近知った「下顔面」という言葉がある。これは顔面バランスのコンプレックスと向き合い情報を発信する美容系YouTuberの女の子から仕入れた知識なのだが、私は顎がしっかりしている。いわゆる「下顔面」が長いタイプだ。

大人っぽい顔をした女優さんが、そのバランスのまま輝いている一方、それをコンプレックスと捉えて骨を削る医療処置を施す方もいる。私は自分の顔のバランスを今までちゃんと分析したことがなかったのだが、自身のコンプレックスを赤裸々に語るYouTuberの彼女の動画を見て、気付いてしまったのだ。なるほど、なんだかパッとしないこの顔面は、「下顔面」が長くてバランスが悪かったからなのか、と(それだけではないだろうけれど)。

私が自分のコンプレックスの「名前」を知れてよかったかどうかはわからない。しかし今の私はとりあえずこう思うわけだ。「この世にマスクがあってよかった(にっこり)」と。

ミスドで思った。「この子はマスクを恨んでる?それとも感謝かな?」

コロナ禍は、私達の生活をガラッと変えたけれど、マスク生活という一部を切り取っても、人々に与えた影響は尋常じゃない。そしてその影響は、人によって様々だと思う。

私とは異なり「下顔面」コンプレックスもなく、毎日メイクにひたむきな人からすれば、マスク生活はテンション駄々下がりなんだろう。なにせ、リップやチークを選ぶ楽しみが奪われたのが大きい。あと、マスクによるメイク崩れにも留意しなくてはならないだろうし(想像)。

先日ミスドでお茶をしていたら、可愛げな女子高生達が入ってきた。その子達は商品を乗せたトレーをテーブルに運び、スマホでピンクのポケモンドーナツを撮影していた。そのうちの1人の女の子がマスクを外し、露になった頬っぺたにぷつぷつとした赤いニキビを作っていたのを見た時、私は思った。「この子はマスクを恨んでいるのかな、それとも感謝しているのかな」と。

彼女を、かつてニキビに悩んだ私のノスタルジーに巻き込んでしまって悪いなと思いつつ。そんなことは気にせず今はドーナツで幸せを感じていてくれるといいなと勝手に願ったりして。

私は今のところ自分の顔を60点前後だと思って大方の日は生きている。時折メイクに気合いが入って高得点を叩き出すこともあるし、今日は日焼け止め塗るのが精いっぱい、せめて眉毛だけでも……という赤点確実の日もある。しかしそんな点数は自分の中での振り幅であって、誰かに採点されるのはまっぴらごめんだ。

だから私はマスクを着ける。当然今は感染対策という意味合いが強いけれど。しかし同時に、自分自身の「下顔面」に対する視線をそらし、自分の中の採点機能を騙すために着けている。これも、私の処世術。

だって、シェーディングやハイライト、文明の力は素晴らしいけれど、サボりたい日もあるじゃんね。とはいえ、2021年は平均が70点くらいになるように、メイクと向き合うメンタルを鍛えていきたい。いつかみんなが気持ちよく、ノーマスクで暮らせる日が来るといいなぁ。