私とハナちゃんは学生時代からの親友だ。コロナの影響を受けて、私たちは春からリモートお茶会をするようになった。口下手な私を相手に、ころころと愛らしく笑うハナちゃんを見ていると最高にうれしくなってしまう。
その感情が積もり積もって、溢れて、決壊してしまったようだった
10月某日のリモートで、ハナちゃんは思いつめた顔で呟いた。「実はお母さんに帰ってくるなって言われて、ずっと帰省してないの。都内に住んでるだけで周囲の視線が冷たいよ」
思い当たる節があって、私は何も言えなかった。
東京で暮らす彼女と違って、私はそこから片道3時間の片田舎に住んでる。夏に市内初のコロナ感染者が出たとき、その人の安否ではなく、東京へ出掛けたから感染したのだという根も葉もない噂が地元で広まった。
そんなふうだったから、ハナちゃんの言いたいことはよく分かった。はなしに頷くことしかできない私に対して、目からぼろぼろと涙を落として彼女は言った。「そっちに会いに行ってもいい?」
そうだ、きっと彼女は数ヶ月間その言葉をずーっと飲み込んでくれてたんだと思う。東京に住む彼女は私に遠慮してた。私の方から「会おうよ」って言ってくるのをいつかいつかと待ってたはずだ。その感情が今日、積もり積もって、溢れて、決壊してしまったようだった。
背中に手を添えて、ぽんぽんとさすってあげたいと思った
今すぐに会いたい。むせび泣く彼女が少しでも楽になるように、背中に手を添えてぽんぽんとさすってあげたいと思った。
実際は、なんのフォローもできないまま答えた。
「ごめんね、会いたいけど、今はまだ難しいと思う」
一緒に暮らす家族のことを考えるとリスクはとれないと思った。感染してしまったときの風評被害も怖い。私は彼女に会わないという選択をした。これは東京を、ひいては彼女を、差別することになっちゃうのかなあ。
もう彼女は目を真っ赤に充血させてしまって、「大丈夫だよ、ごめんね、早く会いたいね」と言ってくれた。そこから先はよく覚えてない。何を言っても取り繕うように聞こえちゃいそうで、そんなことばかり気にして喋ってた。
コロナに感染してなくたって、私たちは充分病気になってた。人から人へ伝染して、社会全体が不安に感染してしまってる。私やハナちゃんだって、もれなくそのうちの1人だった。
寂しさを吹き飛ばすほどの愛を、頭をひねりまくって抽出してる
その後もリモートお茶会は続いてて、ハナちゃんは楽しい話題も混じえつつ、たまに弱音をこぼしてくれるようになった。私は相変わらず、うんうんって頷くだけで気の利いたことを少しも言えない。来年は会えるだろうか。
私は子供のころから作文が1番苦手だったから、何かを書くことを徹底的に避けてきた。そんな私が今年のステイホームでこっそり始めたのが、文章を書くこと。「かがみよかがみ」への投稿もその一環だ。
今はハナちゃんにラブレターを書いてる。寂しさを吹き飛ばすほどの愛を、頭をひねりまくって抽出してる。感情の昂るままに書いてると、なかなか純度100%の愛を表現できない。「大好き」の一言で全てが通じたらいいのにな~。
年明けのリモートで、この手紙を読みあげるのが目下の目標だ。会えない日々を憂いて手紙を書くなんて…私とハナちゃんの関係は平安時代あたりまでタイムスリップしてるんじゃない?やけくそも否めませんが、紫式部も真っ青の恋文を書いてやろうと思ってる。
これで会えない分がチャラになるとは思わないけど、この足取り不安定な状況をいつか2人で笑い話にできるといいな。会えない時間が愛を育てるってね。