私は昔からよく髪質をほめられる。
美容師さんがお客さんの髪を褒めるのはデフォルトなのかもしれない。けれど、色んな美容室に行くたびに褒められた。
友人にもよく羨ましがられた。「さらさらだね、まっすぐだね」「ストレートパーマをかけてる?」

巻いても無駄、パーマは消える。私はさらさらの髪が好きじゃなかった

でも私はなんとも思わなかった。
さらさらの髪が好きじゃなかった。雨の日は湿気を含んで超直毛でさらさらになり、髪を巻いたって無駄。パーマなんて翌日には消えていた。

そして髪質がよいことを理由にケアを怠った。
シャンプーにも拘らず、安いものを使う。
時には父や弟と同じ男物のシャンプーを使った。
リンスなんて使ったことをなかったし、乾かさないで放置することもあった。
それでも丈夫な髪は頑張ってくれてたんだと思う。

なんでみんなシャンプーやトリートメントにこだわるんだろう。お金をかけるだけ無駄だろう。年頃になっても私はそう思っていた。

彼は私の髪を指でとかす。直毛で良かったと初めて思った

そんな私に社会人になって彼氏ができた。とても優しい人だ。ソファに並んでリラックスしながら映画を観るのがお決まりのデートスタイル。
彼はよく私の髪を指でとかす。直毛の私の髪は引っかかることなく、指通りがよくエンドレスにそれが繰り返される。「リラックスできるね」と彼が言った。
髪が直毛で良かったと初めて思った。

鏡を見て、髪を触る。ふと気づいた。肌とかまつ毛とか気にしてたけど、髪はこの25年間何もしてあげてない。
昔はもう少しコシがあったかなぁ。天使の輪が見えてた気がする。あぁ、髪の毛も少し年をとったんだ。
ずっと頑張ってくれてたんだね、と。

それから髪の美容について調べた。そしてはじめてお金を費やして、定番のトリートメントを一つ買った。

ドキドキして、初めてトリートメントをつけた。心がきゅんと動いた

その日、ドキドキしながらトリートメントをつけた。
美容室でつけられたことはあるけど、自分で自分の髪を触ってつけたのは、恥ずかしながらこの25年間で初めてだった。
髪を乾かした後、指でとかした。生まれ変わったようにさらさらに、トゥルトゥルになった。
何より自分の心がきゅんと動いた。なんて気分が上がるんだろう。私、きれいな髪を持ってる。

ずっと放置してた。今まで何もしてあげなくてごめんね。そう思った。

それからは色々なシャンプーやトリートメントを試し、好きなのに落ち着いた。
自分の香りも決めた。
彼は髪を撫でて「もっとさらさらになったね」と言ってくれた。

何より、自分が髪の毛を乾かして、髪を自分で撫でてあげるようになった。
正直、直毛の髪よりはゆるやかなウェーブややわらかい髪質に憧れがある。
今でも雨の日は髪の毛がぺったんこになって気分が落ち込むことがある。

でもこの髪は一生付き合っていくんだから、髪の持ってる魅力を最大限に活かしてあげようと思って、髪型も考えるようになった。

髪が元気になると私も元気になる。
髪を愛でるとちょっとだけ自分を愛でられる。

もし、私みたいにあまり髪を愛でたことがなかった人がいたら、1度愛でてあげてほしい、触れてあげてほしい。

この先人生を長く共にすることになるのだし、時々労ってあげよう。
髪はあなたの一部だから。あなたを愛でてあげよう。