恋バナをしてこなかった。
あの人が格好いい。あの子とあの子がいい感じ。女の子なら誰もが好きなはずの話に、何となく交じれなかったのだ。相槌を打ってみても、自分の表情がぎこちないのが分かった。そんな自分がみっともなくて、すごく嫌で。修学旅行や合宿では一人先に寝た。目を閉じていても、本当はみんなの声が聞こえていた。
スカしていた。浮足立って、服も見に行ったけど、平静を装った
色恋沙汰からは距離を置いていたけど、人を好きにはなる。バイト先の人だった。夏休みに入ると、彼とシフトが被ることが増えた。お客さんやバイト仲間のこと、趣味、学校、いろんな話をした。話のテンポが合って、時間がすぐに過ぎた。寝る前には、彼とした話を頭の中で何度も再生した。
あるとき、彼がご飯に誘ってくれた。私は格好つけて軽くOKしたけど、本当は舞い上がるような気分だった。その気分を誰かと分け合うことはなかった。きっと一緒に喜んでくれる人はいたと思う。だけど、私がそうすることを知らなかった。こんな私が乙女みたいな話をして、何と思われるんだろう。浮足立って、服も見に行ったけど、悟られないように平静を装った。何てことはない、スカしていたのだ。
だんだん彼と距離が近づいていくと、恋愛の話題を出してくるようになった。
「どんな人がタイプ?」から始まって、
「見た目はどういう系がいい?」
「芸能人だったら誰が好き?」
「ジャニーズだったら誰?」
電車の車内広告を眺めていたら、「その俳優好きなの?」
恋バナ経験の蓄積がない。自分が足りない人間に思えてならなかった
私のことを知ろうとしていてくれたことは分かる。でも、そういう聞き方に対応できなかった。用意されたワークシートの項目を埋めようとしているような感じがして。
芸能人に疎いわけじゃない。でも、推しの芸能人って、誰しもいるもの? 見た目のタイプって、みんな決まってるの? 今ならそんなことないって分かるけど、恋バナ経験の蓄積がない私は、自分はふつうに達していないのかも、と受け止めた。
彼が好きだったから、ふつうに恋バナできるようになりたくて、旬の俳優の画像を検索してみたりして、誰のどこが好きかいっぱい考えた。
きっと他の子だったら、ふつうに答えて、当たり前に話が弾むんだろうな。どうしてこんな簡単なこともできないんだろう。自分が足りない人間に思えてならなかった。
自分は一生こうなんだろうかって怖くて、自分を変えたいと思った。
自分をさらけ出す彼の姿は清々しくて。自然と私も話しだした
最近、ひとりの男性と出会った。その人は過去の恋愛の話をペラペラ話す。私は特に、聞いたわけでもないのだけど。知らねえよ、とは、不思議と思わなかった。
いわゆる重いタイプの人で、よく言うとピュアな女の子みたいなところがある。交際=結婚と考えていたり、大学生なのに付き合って1年以上キスもしなかったり、フられて大学辞めそうになったり、穴を埋めようと付き合ってみた女の子に、本気で好きじゃないから結局手は出せなかったり。
彼は言った。
「友達には気持ち悪いって言われるんだよね」
彼は私を笑った。
「コンプレックス多くない?」
ちょっと悲しかったけど、何か笑えた。
どう思われてもあっけらかんと自分をさらけ出して、バカにしてくる友達のことも好きでいる彼の姿は清々しくて、羨ましい。彼の話で、一緒に切なくなったり、笑ったりした。
自然と私も話しだしていた。どういう顔が好きとか、俳優だったら誰とか、そういうのは未だに見つかっていない。でも今は、背伸びして、合わせられるように話そうとは思わない。
恋したり、恋バナしたりするのに、ふつうも何もないんだ。
その男性のことが好きなのか、今ははっきり分からない。でも、この気持ちを誰かと共有したくて、今この文章を書いている。