ドが付く田舎の農家で末の子として生まれた私は、長男である兄に特別な愛情を注ぐ母親を見て育った。

いつしか、家庭の外で自分を「1番」と言ってくれる人を探すように

兄は1人目の子供で、大事な後継だから。どんなに努力したところで甘やかされ傲慢に育った兄よりも愛されることはない。
そのことが酷く苦痛で耐え難かった。まるで、兄よりも自分のほうが劣っている人間のように感じられたから。
それでも田舎、とくに農家は男尊女卑の思想が根強く、男である兄を「超えたい」と考えることなど以ての外だ。
いつしか私は、家庭の外で自分のことを「1番」と言ってくれる人を探すようになっていた。

どうしたらそんな特別な存在になれるのか。そう考えていた、小学6年生のとき。担任の男性教師から体を触られ薄気味悪い笑顔を浮かべられた。それから日を近くして、兄の友人からも同様の行為をされた。
男の人は体を差し出せば喜んでくれることを知った。しかも兄の友人は抵抗しなければ「1番好きだ」という私が小さな頃から欲しくてたまらなかった言葉をくれた。12歳にして、7つ年上の男に体を許してからは簡単だった。
手当たり次第にネット上で男を探し、自分を1番と言ってくれる人と会った。私の幼さに気付いてすぐに帰る男が大半だったが、そうでない男もいた。

いつしか私はそのうちの1人に恋心を抱くようになっていた。5つ年上の都会で生まれ育ったバンドマン。現在29歳になった私が思い返してみると、本当に軽薄な男だったように思う。それでも当時15歳だった私には彼が物凄く格好良い男のように見えていた。
中学を卒業したら彼と一緒になりたい。今までの売春めいた行為をすべて忘れて、普通の女の子として結婚して幸せになりたい。そう思うほどに真剣だった。花嫁修行なんていう前時代的な理由から家政科のある女子校を選んだ私は、彼から突然「もう会えない」とメールが来ることなど想像もしていなかった。

彼女と出会って、ナンパ待ちも、ネットで男を探すこともなくなった

高校で毎日暗い顔をしていると同じクラスの女が声をかけてきた。誰にでもへらへらと笑う八方美人な女。
そいつが私と話す時だけは少し乱暴な口調になる。それがなんだか不思議で、嬉しいと思うようになっていった。
「少しは女の子らしくなるようにってこんな学校に入学させられたけど、ふざけんじゃねえって感じ」
私とは正反対の思想を持つ彼女と話しているうちに、初めての失恋の傷が徐々に消えていくような気がした。
気付いたら携帯電話の着信履歴もメールのやり取りもすべて彼女の名前だけが羅列するようになっていた。
ナンパ待ちすることも、ネット上で会ってくれるような男を探すこともない。そんな自分の変化に私は半年間も気が付かなかった。
「ずっと援交していたんだ」と打ち明けた私に「だから?」と言って首を傾げるこの人と過ごす時間が、とても愛しい。今までの過ちを全部さらけ出しても、何も変わらず私と友達でいてくれる。とても貴重な存在なのに私は彼女と「ただの友達」のままではいたくないと思うようになってしまっていた。

オリジナルの関係性で愛し合える人を選んだ自分に、「1番大好き」

「あなたのこと、好きかもしれない」
人生で初めて自分から告白した。しかも同性になんて、ほんの1年前までの私からしたら想像も出来なかった。
「知ってた」
そう言って笑った彼女は小さくため息をついた後に、自身がアセクシュアルであることを教えてくれた。
他者に対して恋愛感情や性的欲求を抱かないというセクシュアリティを持つ彼女は、それでも私の告白を受け入れてくれた。

男遊びを繰り返してきた私と、性欲のない彼女との交際。
それが29歳同士になった今現在でも続いている。このままこの人とずっと一緒にいたら、世間一般で言う「普通」の幸せは手に入らないかもしれない。

それでも、お手本のないオリジナルの関係性で愛し合えるような人を選んだ過去の自分に「1番大好きだよ」と伝えたくなる。