キーボードを叩く音が部屋に響く。
「じゃあ、実行しますね。」
と横で操作をダブルチェックしていた先輩に言うと
「おっけ。」
と軽い言葉が返って来る。カタカタいわせる私の動きに安心感を見出したのか、先輩のおしゃべりが始まる。
「そういえば、大学は理系の学部じゃないんだよね?」
「そうですよ。文系です。」
「ふうん。文系なのに、なんで全然違うこの仕事にしたわけ?」
今まで何百回と聞かれてきた質問だなと思った。私の答えは決まっている。
「手に職つけたら食いっぱぐれないかなって思ったんですよね。」
この私の答えに対する反応はまさに千差万別だ。だからその人の思考が少し垣間見える気がする。私は少しわくわくして、先輩はなんて返すんだろうなあと返事を待つと
「一人で生きていく気満々じゃねえか。」
と笑いながら言われた。ほう、なるほどなあ。まあ、この答えだけでは思考は推し量れないし、さらに言うと先輩は私を茶化すのが好きだから本心かどうかも怪しい。ただ、もしこの返事が本心から出てきたものなのだとしたら私はこう言うだろう。
「そうですよ。一人で生きていこうとしないでどうするんですか?」
と。
顧問が託した中学最大の問い 社会人になって導いた自分の答え
中学の卒業の時に、部活の顧問が卒業アルバムに書いてくれたメッセージが忘れられない。
「世界一の女になれ」
この一言のみを達筆でかっこよく書いてくれた。「世界一」なんていう規模の大きい言葉に苦笑しながら、チームメイトの卒業アルバムを覗くと同じ言葉が書かれていた。どうやら先生はみんなに「世界一」を求めているらしい。
「どういうこと?」
とチームメイトと首を傾げあった。数人で知恵を絞っても、答えだと思う解釈が出てこなかった。一体私は何を目指したら先生の言う「世界一の女」になれるのか、中学三年間で出会った問題の中で一番難しかった。答えが全く分からないまま、先生のメッセージに託された思いを掬うことができないまま私は中学を卒業した。
ただ、強烈で鮮やかなそのメッセージは私の心の中にずっといた。だって「世界一の女」なんてかっこいいじゃないか。なれるものならなりたいと思うのは当たり前だ。ただ、どういう意味で先生がそう言ったのかそれが分からないことには目指しようがない。
それがようやく自分なりの解釈ができるようになったのは社会人になってからだった。
多様化する社会の中で、幸せの価値観は本当に人それぞれだ。正解がないように、間違いもない。自分がいいと思うものが一番だ。だから、ここで大事なのは求めるものではない。目標があること。それを手に入れようと、手を伸ばし続けることだと思うのだ。
目標を持つこと、求め続けること、そして自分で最高に幸せだと思えること、それができたら「世界一の女」なんじゃないかと思うのだ。
一人でも生きていける二人が結婚したら最強
私は今も未来もそんな「世界一の女」を求め、あり続けようとしていきたい。
だから私は結婚願望はあるが、たとえ結婚してもこの思考を持ち続けていたいと思っている。
つまり、一人で強くたくましく生きていく。自分で自分を幸せにする。そんな中で、一人でも生きていける二人が結婚したら最強だと思うのだ。
いつだって自分を満足させるのは自分だ。幸せや満足を、結婚した相手に与えてもらおうと求めるのは違う。また、自分を満足に幸せにできないのに、結婚した相手に幸せを分けたりすることもできるはずがない。そう、何事もまずは自分からなのだと思う。
そんな風に考えて、同じ思考の男性を探している私の結婚は残念ながらまだ遠そうだ。