今お付き合いをしている恋人と、私は「結婚」したいのだろうか。
平穏な日々を守ることが第一の恋愛ばかりをするようになった
20歳を過ぎた頃から、友人間の恋愛話に「結婚」という文字が出てくるようになった気がする。それは結婚をするかしないかの選択ではなく、今の恋人との結婚を意識しているかどうかを聞かれることが増えた。私はいつも煮え切らない言葉で逃げてしまう。
「彼はとても料理が上手で家庭的だし、きっと子育てにも協力的だとは思うの。お酒も飲める人じゃないから、まっすぐ家に帰ってきてくれるはず。浮気できるほど器用でもないし、幸せになれそう。けれどやっぱりまだ分からないよ」
いつの間にか私は、将来に起こりうる小さな小さな歪みの種が芽を出さないように、平穏な日々を守ることが第一の恋愛ばかりをするようになった。
愛情を見返りなく降り注いでくれる人、私は料理が苦手だから料理が好きで得意な人、浮気を疑うのはとても辛いのを昔付き合った人で学んでしまったので、あまりモテるタイプじゃない人、未明でも一緒にコンビニへアイスを買いに行ってくれる人。
そういう風に、なんだか自分の直感的な感情をどこかに置いて、自分がいかに幸せを感じられて精神を落ち着かせたまま恋愛をできるかに体重をかけている。そんな臆病で不器用な自分は愛おしい。
魅力的な彼と結婚したら、不自由はしない。でも生涯愛し続けられる?
彼はとても魅力的だ。結婚をしても私はきっと心も身も不自由をしない。けれど決して、結婚を考える理由の中に「彼がひたすらに好きだから」とか「一生を共にしたい」という暖かくてパステルカラーのような感情はどうしても一番に湧き上がっては来なかった。
ただ自分が恋愛に淡白なだけなのか、それとも彼に対して純粋な想いが無いのか。そもそも結婚が人生や恋愛においてのゴールだとは思っていない、むしろスタートに近いものを感じる。新婚生活は楽しいだろう、しかし生涯をかけて私は彼を愛し続けられるのだろうか。歳を重ねて、いろんなことが変化してそれらが全て当たり前のものになってしまったら、飴細工のように熱で溶かして絡み合って甘く美しい時間など忘れ粉々に崩れ、ただただお互いを消費していくだけになってしまうのでは無いだろうか。
夢から覚めたのは、どうしても彼と出会いたくて泣いてしまった場面
ある日夢を見た。
彼と出会わなかった世界軸で生きる夢だった。
私は全く別の男の人の隣を歩いていて、直感で「この人が、この世界の私の恋人なのか」とわかった。それと同時に、この世界では彼と私は出会うことも恋人になることもないということも理解した。仕方ない、と薄情な私はこの世界を受け入れて恋人に歩幅を合わせていた。ショッピングをしてカフェに入って何気ない会話をして、どこにでもあるようなデートをしていた。
「手をつなごう」と言われたので、素直に私は右手を差し出して恋人の左手を握った。その瞬間、「違う」と思った。私が知っている手はこんなに分厚くは無いし、こんなに体温も高くなくて、もっと指が細いはずだ。この手は違う、全然違う。さっきまで受け入れていたはずのものが、とてつもなく受け入れられなくなって、どうしても彼と出会いたくて泣いてしまった。夢はここで覚めた。
起きて、ハッとして、横で寝ている彼を見た。
安心感なのか不安なのか、なんだかよく分からない感情で胸がいっぱいになってしまって、寝ている彼の鼻をつまんで無理矢理起こした。
私と彼の将来を覆っていた白くて薄い布のようなものをしっかりと認識できた気分であった。私は自分で思っていたよりも彼のことをずっと好きであったことも、なんだかんだ結婚も考えてしまっている自分も、たった夢1つで素直に受け入れることができてしまった。
「私と結婚したい?」と彼に聞くと、ちょっと嬉しそうな困ったような顔で笑いながら「まだ早いなあ」と言った。
その日の夕御飯は、私の好きなほうれん草と卵と豚肉の炒め物だった。