おめでとう。ずっと応援してきた人が、恋愛感情を抱いていない(と、少なくとも本人は言っていた)相手と、結婚した。インタビュー記事を読むには、両親にもまだ会わせていないらしい。誰に会わせようが、会わせまいが、そんなのは自由だ、おめでとう。いい人みたいで、よかった。おめでとう、紙一枚で結婚できて、いいなあ。
国勢調査では認知されない私たち
私のパートナーは同性です。
同僚や、カミングアウトしていない友人と話すときは、パートナーのことを「同居人」と呼ぶ。同じ家に住んでいるから。まだ別々に暮らしていたときには、「恋人」か「交際相手」。でも不思議なことに、なぜか「彼氏」と呼び直される。一度も彼氏なんて、言ったことないんだけど。
彼氏は、何をやっている人なの。彼氏とは、つきあってどれくらいなの。彼氏のどこを、好きになったの。「いいえ、彼氏じゃないんです」と言うこともできない私自身が、彼女の存在に打ち消し線を引いている。
先日、国勢調査がありましたよね。あの記入用紙には、「世帯主との続柄」を書く欄があります。入籍していない男女のカップルは、「配偶者」にチェックを入れれば、問題なく集計されるのだそうです。でも、戸籍上同性同士のカップルは、集計されない。「あなたたちは、存在しません」。それってなんだか悲しいけれど、それと同じことを私は、自分自身でしている、ずっと。
法律による結婚を選べない私たち
「結婚の自由をすべての人に」訴訟(Marriage For All Japan)を、知っていますか。国が同性婚を認めないのは憲法違反として、全国の戸籍上同性であるカップルが、正当な手続きにのっとって、粛々とNOを唱えている。訴えの内容を読み返すたび、原告として戦ってくれている人のことを考えるたび、胸にふたをされたような気持ちになる。どんな想いで、彼らはその場所に立っているんだろう。
私はあなたたちを差別しません、という人はたくさんいる。SNSで訴訟の話題を見ていても、そういう意見はいくつもあった。きっと、存在するだけで攻撃をされづらい世界にはなっているのだと思う。でもね、「愛し合っているんだから一緒にいるだけでいいじゃん」「パートナーシップ条例っていうのがあるんでしょ?」なんてことは、ないんですよ。全然、違うんです。だって、私たちは、結婚を選べない。
たとえば来年、家を買いたいと思う。キャッシュで購入できるような財産は持ち合わせていないので、住宅ローンを組むことになる。ふたりで都内に2LDKの中古マンションを買うのは、贅沢すぎる選択肢ではない。でも、同性カップルが収入合算やペアローンを利用できる銀行は限られていて、多くの銀行では「合意契約に係る公正証書の正本または謄本」および「任意後見契約に係る登記事項証明書」とかいう、なんかめちゃくちゃ漢字の多い書類が必要になる。そして、その発行には、いくらかのお金と数ヶ月単位の時間がかかる。婚姻届は無料なのに。
たとえば明日、パートナーが不慮の事故に遭う。病院に搬送されて、私に連絡してほしいと言う。でも、病院の方針によっては、してもらえないかもしれない、家族ではないので。もしかしたらそのまま、二度と会えなくなってしまうこともあるかもしれない。
どうしようもなさを抱えながら、暮らしを続けていく
あーあ、筆をとったときには、もう少しハッピーな結末を考えていた。書いているうちに、沈殿していた怒りがふつふつと湧き上がってきてしまって、殴るようにキーボードを叩いている。ソファで寝ているパートナーを起こしたくないので、深呼吸してお茶をいれる。
わかっている、それでも私は、運がいいほうだと思う。自分の家族にはまだカミングアウトできていないけれど、パートナーの家族は、私のことをあたたかく迎え入れてくれた。お正月も、恋人の実家に帰った。用意してもらっていたおせち料理を食べた。立法の不作為がなければ、そろそろ結婚していただろう人の隣で、ぬるくなったビールを飲み干して。お笑いのテレビを観て、同じタイミングで、ふたりで笑った。