「元気でいてくれてよかった」
もし、私を変えたひとことは何かと聞かれたら、すぐに思い浮かぶのは、この言葉だ。正確には、変えつつある、かもしれない。

素敵な人ばかりだったラクロス部の先輩たちに、心配と迷惑をかけた

大学1年の終わり、キャンパスの正門には運動部や熱心なサークルの部員が立ち並び、手続きや生協の説明会のために通りかかる新入生を待ち構えていた。私は大学に用事があり、黒いキャップで顔に影を作りながら、新入生だと思われたくないと願いつつ正門を通り抜けようとした。しかし、私の大学では女子生徒が貴重というのもあって、よりにもよって女子ラクロス部の部員に進路を阻まれてしまった。

女子ラクロス部――私が当時所属していた団体だ。
私はその年の10月ごろから、いろいろな理由が重なって、心身がついていけなくなり、部活に顔を出せなくなっていた。朝起きると、頭が痛くて、苦しくて、部活に欠席の連絡をする日々が続いていた。部活のことだけでなく、生き方そのものに躓いてしまって、部活に時間も心も体も割くことができなかった。やめたくないという気持ちと、やめたら楽になるんじゃないかという気持ちで揺れ動く、苦しい日々だった。

ラクロス部の同期や先輩は、素敵な人ばかりだった。特に、代替わりして最高学年になった3年生の先輩たちは、私のことを気にかけていろいろなメッセージを送ってくれた。でも私は、自分の頭が整理されていなかったので何を返したらいいのかわからず、また当時の精神状況では、メッセージひとつ返すだけでも、かなり消耗した。そうして、先輩からのメッセージに返せないまま、何日も経ってしまい、余計に心配と迷惑をかけた。

私に気付いた先輩は、嬉しそうに私のコートネームを呼んだ

新入生と勘違いして先輩が声をかけてきたのは、そんなときだったのだ。やむを得ない用事とはいえ、部活や新歓に参加せずに大学に来ていることが気まずかったし、ろくに連絡を返していないことも気まずかった。だから足早に立ち去ろうとしたのに、「女子ラクロス部です!」と声をかけられてしまった。

顔をあげ、私に気付いた先輩は、嬉しそうに私のコートネームを呼んだ。
「まき!」
私はとにかく、「すいません」と言うことしかできなかった。情緒が不安定だったのもあって、顔を見ただけで涙が出てきて、「迷惑かけてごめんなさい」と言った。

すると先輩は私を抱きしめて、こういった。
「元気でいてくれてよかった」と。
先輩は、私が部活に参加できていないことも、やめるかもしれないことも、のこのことキャンパスを歩いていることも、なにも怒っていなかった。そんなことはいいから、とにかく私が元気でいてくれればそれでいいのだと、言葉と抱擁で伝えてくれたのだ。

魔法の言葉、最上級の思いやり、最上級の愛。前より上手に生きられる

結局、悩み続けるのが苦しくて部活をやめてしまったけれど、先輩のその言葉がいつまでも私の心をあたためている。部活をやめたことを未だに後悔することがあるし、この先もきっとしばらく後悔するけれど、それでもせめて元気でいよう、と前向きにさせてくれる。

元気でいてくれてよかった。元気でいてくれればいい。それは、魔法の言葉だと思う。最上級の思いやり、最上級の愛だと思う。私は、そう思ってくれる人がいることを感じることで、前よりも上手く生きられるようになりつつある。さらに、私も他人に対して先輩のように愛にあふれた人でありたいと思い、他人の存在そのものを受け入れられるようになろうと、変わりつつある。

いつか私も誰かに、「元気でいてくれればいいんだよ」と伝えて、手を差し伸べることができたら、と強く思う。