「旧姓」を名乗ると、嘘をついているような気分になる。
私は入籍し、生まれてからずっと使っていた苗字が「旧姓」になった。本当は苗字を変えたくはなかった。でも、夫に苗字を変えてほしいわけでもなかった。幸い私の職場は、苗字が変わっても「旧姓」のまま働くことができた。苗字を変えても、「旧姓」を使い続けていけばいい。話し合いの結果、私が夫の姓に変えることになったのだ。
苗字が変わっても、生活はほとんど変わらなかった。日常生活では基本的に「旧姓」を使い続けている。仕事ではもちろん、友だちからの呼び名も、美容室やレストランを予約するときの名前も「旧姓」のままだ。
だけど1つだけ変わったことがある。
「旧姓」を使うとき、罪悪感を抱くようになった。
「旧姓」使用は嘘つき?負い目を感じる日々
「旧姓」を名乗ると、夫の姓を否定している気がしてしまう。
家事も料理も、当然のようにこなす夫。男女平等の考えを持ち、私が「旧姓」にこだわる気持ちも分かってくれた。「旧姓」を使う私を認めてくれている。そんな寛容な夫が大好きだ。
だからこそ「新姓」を名乗りたくないと感じることが申し訳ないと感じる。私は「旧姓」を使っているけど、夫の苗字が嫌いなわけではない。夫や義両親と家族になれて、心から嬉しいと感じている。それでも夫の姓を避け、「旧姓」を名乗り続ける私。
まるで“本物の夫婦”になることを拒否している気がしてしまう。
周りの結婚した友人たちは、当たり前のように「新姓」を受け入れている。
Facebookで「苗字は○○になりました」と報告し、SNSのアカウント名も「新姓」にする子がほとんどだ。
頑なに「旧姓」を使い続ける私に対し、彼女たちは「なんで苗字変えないの?」と不思議そうに聞いてくる。彼女たちの生き方が「普通」なのだろう。だから「旧姓」を名乗る自分は、嘘をついて生きているように感じるのだ。
結婚によって、どうして「旧姓」を名乗ることに負い目を感じなければいけないんだろう?
法律が変わればこのストレスから解放されるのに
昨今、入籍後も夫婦が別々の姓を名乗れる「選択的夫婦別姓制度」の是非が検討されるようになった。若い世代を中心に賛同する声がある一方で、「今の制度でも『旧姓』を名乗れるのだから、導入の必要はない」という反対の声もある。
たしかに選択的夫婦別姓が認められなくても、「旧姓」で生きていくことはできる。でも本当は、とても苦しい。
「旧姓」が「旧姓」と呼ばれる限り、戸籍と違う名前を名乗る罪悪感は消えない。
でも「新姓」は本当の名前であっても、自分を偽っている気がしてしまう。
「旧姓」で生きていきたい私たちにとって、どちらの姓を名乗っても息苦しいままなのだ。
選択的夫婦別姓が認められれば、好きな姓を堂々と名乗れるようになる。
結婚して入籍しても、自分らしい名前のままで生きていける。
いつか「旧姓」が「旧姓」でなくなる日まで、私は罪悪感と闘っていきたい。