私は学生の頃から恋愛に依存することで、自己肯定感を保っていた。例えば、「可愛い」や「好きだよ」と、自分が望むような言葉をくれる人に。
世の中には自分にとって都合の良い人間かどうかを巧みに嗅ぎ分ける者がいる。まさに私がそうであった。

私が初めて恋愛の味を占めたのは高校の頃。相手は他校の一つ年上のイケメンだ。
でも決して、彼の容姿だけに惹かれた訳ではなかった。先述したように、私には自分にとって害のない人間を見つける嗅覚があり、それが直感的に働いた為、自分からメールで告白したのだった。

自分から告白したとはいえ、その頃の私は恋愛、おもに接触することに対して臆病で、キスに至るまで一年を要したほどだった。彼は周りも認めるほどのイケメンで、だから尚更、嫌われることを恐れながら交際していた。
彼はそんな私をまるごと受け入れるように本当に真摯に向き合ってくれた。
二人きりになると緊張して、なかなか目を合わせられない私に向かって、
「ねえ、目を合わせる練習してみない?なるみ、いつも俯いてばかりいるでしょ?俺、もっとなるみの笑顔が見たい」
と、はにかみながら提案してくれた。今思えば歯の浮くような言葉だったけれど、自己肯定感のない私にとっては「神が現れた!」と思うほどの衝撃と、今まで経験したことのない快感と喜びだった。

付き合い始めて2年、彼と結ばれた。そこから二人の地獄が始まった

彼と付き合い始めて二年を目前にした頃、ようやく彼と結ばれた。お互いに照れ笑いしながらくつろぐ時間は本当に幸せで、心から「彼と離れたくない」と願った。心も体も素っ裸になるということは、自分を捧げたのと同義である。

そして、そこから二人の地獄が始まった。彼と会えない時間になると、急激に不安と寂しさが襲うようになり、合間を見つけては彼にメールをして、
「私のこと、好きだよね?」
と確認するように訊いた。彼はいつも穏やかな姿勢で
「当たり前!大好きだよ」
と返信をくれたが、部活で忙しい時には返信が遅れる日もあった。

不安に耐えかねた私はついに自傷行為に及んだり、可愛いと言われたいあまりに過度なダイエットに走り、ついには食べたものを吐くという摂食障害に陥っていった。彼にそのことを伝えると、今まで聞いたことのないような真剣な声色で私を叱った。
「俺はそのままのなるみが好きなんだよ。お願いだから自分のことを傷つけないで」
そんなときでさえ、私の心は歪な快感に包まれていた。彼の関心を得ていることが愛されている証拠のように感じて嬉しかったのだ。
次第に私は、彼の些細な言葉や態度をチェックして安堵するようになった。少しでも素っ気ないと感じたなら、たちまち怒りを露わにし、咎めたり彼の人格を否定するような言葉を発した。

付き合って4年。彼が離れていって、更に地獄。彼は優しすぎたんだ

そして彼と付き合って四年になる頃、とうとう電話口で彼にこう言われた。
「なるみのことがわからない。疲れてしまった」
その言葉を最後に電話は切られ、私はすぐさまメールや電話をしたが、返事はなかった。私の心はパニックと怒りでおかしくなり「逃げやがった」とすら思った。
それからは更に地獄。彼の面影を探すように男漁りをし、一夜限りも厭わなかったけれど、彼のような人はどこにもいなかった。

とても優しくて、優しすぎて疲弊してしまった彼。それでも彼の選択は正しかった、と今になって思う。あの時、彼が振ってくれなければ彼はずっと傷付いたままだったから。
そして数年後、ひょんなことから彼と出合い、彼はこう言った。
「振ったのは俺だけど、振られたようなものだった」と。
もしかしたら彼は二人が苦しまない選択をしたのかもしれない。その変わらぬ優しさをなつかしく思い、あの頃のように頷いた。