私が働く理由は自分を変えたいから。
片思いしている同期くんに見合う人になりたくて、自分の苦手を克服したくてアルバイトを始めた。
――結局、それが叶うことはなかったが。

10月初め、接客のアルバイトを始めた。
初対面の人と話すときは聞き役に徹してしまうし、インターンの自己紹介ではいつも原稿を用意して話すほど人見知りの私。SNSでよく見かける、横柄な態度をとる客と対応する客といった印象が強い(ほぼ偏見だが)のが接客業だ。
そんな私がなぜ接客アルバイトをしようと思ったのか、きっかけは夏休み中にあった実習だった。

私には片思いしている同期くんがいて、彼の学科と私の学科が履修できる実習があったから受けた。コロナ下で前期は遠隔授業になり、彼と会う機会が全くなかったため、この実習はチャンスだと思った。実習の班こそ離れてしまったが、休憩中に他愛もない会話を交わすのが楽しく、たった数日の実習は何事もなく終わる。
はずだった。

実習に組み込まれていた「接客」。自分に足りないものを思い知らされる

実習内容に販売会での接客が含まれていたのだ。シラバスを確認した段階で知ってはいたのだが、この情勢でやるとは思ってなかったし、やってほしくないと願っていた。知らない人たちに商品の説明をしたり、尋ねられたことに受け答えをしたりするのは私が最も苦手としていたし、実習である以上成績はつくのだからプレッシャーだった。
それに、片思いしている彼に恥ずかしいところは見せたくなかった。彼は接客バイトをしているから、こういうことは慣れているだろう。一方で、私は接客未経験かつ人見知り。販売会が近づけば近づくほど緊張が増してきて、自分でもどうすればいいかわからなくなった。

準備が終わり販売会が始まっても、私の緊張は解けないままだった。私の口から発せられるのは事務的な接客ワードだけで、隣で売り子をしている友人みたいに商品を勧めたり気の利いた行動をしたりするわけでもない。同期くんも商品の補充をしながらお客さんに声をかけ、会計を円滑に進めるべく行動していた。そんな彼らを見て、自分に足りないものが何なのか思い知った。

彼のようになりたくて、彼に幻滅されたくなくて接客バイトを始めた

僅か1時間の出来事だったが、すっかり心が折れてしまった私は同期くんに接客を代わってもらい、自分は裏方にまわった。
結果的に、同期くんに代わってもらったのは大正解だった。私にはできない接客を楽々とやってのける彼はとても眩しかったし、今まで以上にかっこいいと思った。しかしそれと同時に、彼や友人にできていることができない自分が恥ずかしかった。
接客が上手くできなくて落ち込んでいる旨を彼にそれとなく相談しても、毒にも薬にもならないような慰めの言葉が返ってくるだけ。できる人には理解されない。それならできる人になればいい。
彼のようになりたくて、彼に幻滅されたくなくて、私は苦手な接客バイトを始めた。

偶然アパレルバイトの募集を見つけ、実習の2週間後には面接までこぎつけることができた。面接を担当してくれた店長は、私の受け答えに難色を示しながらも採用してくれた。研修期間が設けられていて、1カ月経ったら正式な採用をするか決めるという説明をされ、「よほどのことがなければ採用するよ」という言葉に安心しきっていた。お客さんの商品探しの対応が主な仕事だったが、バイトを始めた時期が繁忙期と重なっていたのもあり、仕事を中途半端に覚えた状態で接客をすることになって常に頭は混乱していた。

彼のような人になるという目標は達成されないまま、私はクビになった

バイトを始めて2週間ほど経ったある日、同期くんと偶然会った。
接客バイトを始めたことをさらっと告げると、彼は「接客苦手って言ってなかった?」と驚いた表情を見せた。君のようになりたいから。なんて言えない。「頑張ろうと思って」言葉を濁して、私に言える最低限の思いを伝えた。
彼の、じゃあ頑張ってねという言葉には励まされたし、その日は異常にやる気が出た。頑張れる気がした。

しかし、その日から私に接客の仕事が任されることはなかった。私には接客の仕事は無理だと判断され、裏方の仕事しか任されなくなったのだ。
同期くんの言葉に救われたのに、また何もできなかった無力感でいっぱいになった。

そして、バイトを始めて1カ月で私はクビになった。
彼のような人になるという目標は達成されないまま。

「自分にできることを探してやればいい」この言葉を落とし込めるまで

初めてバイトをクビになったことに落ち込んでいた私は、よく相談に行っていたカウンセラーさんを訪ねた。
バイトをクビになったこと、克服したいことがあるのに上手くいかないこと、持続して働くことができないことに対する将来の不安をぶちまけた。できるようになるまで頑張って、なんて言葉を期待していた。
しかし、カウンセラーさんの答えは、私が欲しいものとは全く異なっていた。
「自分ができないことを無理にしようとしないで、できなくて病むよりは自分にできることを探してやればいいんじゃないかな」
私は自分の苦手を克服しようとしていることを評価してほしいと思っていたし、頑張らなくてもいいなんて言葉がくるとは思ってなくて困惑した。
自分にできることなんかないし、その言葉は腑に落ちないというか、自分のこととして落とし込むことはできなかった。でも、もしも他の人が同様の相談を投げかけてきたら、私はカウンセラーさんと同じ言葉を返すだろう。

あの言葉を自分の言葉として落とし込めるようになるまで、私の目指すところは同期くんのような人になることなのだと思う。
そんな風に自分を変えつつも自分が傷つかない働き方を見つけていきたい。