介護等体験という制度がある。教職課程の中で、中学校教師の資格を取得する者は必須な制度だ。これを制度と呼ぶのか、なんと呼べばいいのかは不確かで。
取り敢えず、受けなければ教職免許は発行されないのだ。教育実習よりも具体像が湧かないものである。
「5日間、5日間だけだから」と自分の心の中で言い聞かせた介護等体験
なぜかと言えば、教育実習生は実際に自分が中学生〜高校生をしていた時にたまに出現していた存在なのだから。私たちの担任の先生たちよりは、年齢が若くて。でも、私たち生徒たちよりは少しお兄さん、お姉さんな存在。だから、気軽に話しやすい実習生の人もいたりなんかして、生徒側だった当時はちょっとタメ口で話してしまっていた、なんてこともあった。
そんな風に友達に近い感覚だななんて思っていた矢先、実習期間の後半には授業を私たちの前でしている。急に大人に見えたし、ガラリと先生に変身してしまった姿に当時の私は「えっ」と驚いていた。その驚きが、今でも鮮明に心の中にある。鮮明にありながらも、気づいたら今度は私がその立場になるのか、と少し動揺が走った。
しかし、今年は特別処置で教育実習がなくなった。それにもかかわらず、冒頭に挙げた介護等体験は受け入れ先が決定して行くことになった。
本来ならば、この介護等体験は大学3年生の時に行うもの。だが、私は今の大学に去年3年次編入をしてきたため4年生である今年に受けることになった。
他の大学で教職を取っている同期に話を聞くと、介護等体験では他の学部の教職志望の人と一緒に受けることがあったと言っていたので、それは安心するなと感じていた。けれど、実際は私ひとり。他の体験学生は周りを見渡してもいない体験先での活動になった。「5日間、5日間だけだから」と自分の心の中で何度も言い聞かせて、私はどのような活動をするのかどんな人たちが働いているのか、全くの未知の体験先へと向かった。
普段関わりが少ない環境での社会勉強は、価値があった
介護等体験初日は、慣れない環境に長時間いたことでの緊張がすごくて、その日の夜は倒れるように寝た。こんなにも規則正しい生活サイクルがちょっと久方ぶりなのもあった。体験での話をし始めるとこれまた長い感想文にでもなってしまうので割愛する。けれど、最終的にこの5日間を乗り越えた私は有意義な時間を過ごせたと思うことができた。
なぜなら、当初はみっちり体験先にいるのに給与や活動費の付与がされないこと、逆に「体験させてください、お願いします」と言わんばかりの私たち側から大学へ介護等体験料を払わされる始末に納得がいっていなかった。無償でアルバイトしているだけじゃん、だったら普通にアルバイトして稼ぐ時間に充てたいよ、と正直なところ不満が尽きず。
そんな状態だった私が、最終的に介護等体験へ参加してよかったと思えたほどに、普段は関わりが少ない環境での社会勉強は価値があった。
その価値が私の中で誕生した背景には、普段は会うことのなかったリハビリテーションのために施設へ通いに来ている人たちの姿とその人たちとのコミュニケーションが大きくある。介護の専門資格を取得する専門学校の実習生ではない私を、当時の施設の方々は驚いていた。とともに、私はそういった専門外であることに八方塞がりな面もひしひし感じていたが、1人1人それぞれの事情を知る上で簡単にわかりやすく私自身の身分を適宜説明していった。そうしながらも私自身のことが主題ではなく、コミュニケーションを取っていく中で相手のことを知ることの方が優先だと思い、意識していた。すると、思いもよらずたくさんの話を引き出したりすることができた。なんだか、教育現場でのクラス学級をみているような気がしつつ。それらに付随して、施設で働いているスタッフの方々との連携を実際に身体を動かして働くことで感じ取ることができた。
"Move out of your comfort zone. "という言葉が頭の片隅にあった
その価値の1つは、普段の関わりが少ない環境に自分の身を置いて働いてみる、という所から得られた社会観だった。
以前からなんとなく知っていた
"Move out of your comfort zone. "
「あなたの安全地帯(居心地の良い場所)から抜け出せ」
という言葉が、私の頭の片隅にあった。
私自身がこの言葉を知ったのは、おそらく日本の好きなタレントさんがブログに書いていたからだったが、実はアメリカで販売の神様と呼ばれているブライアントレーシー(Brian Tracy)が発した言葉であった。
その言葉が、この介護等体験を通して体現されたなと思った。
そして、
"You can only grow if you are willing to feel awkward
and uncomfortable when you try something new."
「あなたが成長できるただ1つの方法は、ぎこちなさを感じて、居心地の悪さを感じるような何か新しいことへの挑戦です」
と続くこの言葉の通りに、介護等体験をしてなかった前の私にはなかった、私の社会観が広がっていった気がする。