夜、駅のホーム。迫り来る電車を横目で見ながら、思う。いつもの帰宅時間より遅いのは、鍵閉め当番だったから。空腹で口内は唾液で溢れ、飲み込むと空っぽの胃に落ちていくから、余計に空腹を感じる。なんて輪廻だ、苦しみしか生まない。そのせいか、胃がムカムカしてきた。

空腹だけではない胃がムカムカする理由は、鍵閉めでの一戦

 実は、胃のムカムカは空腹のせいだけじゃない。鍵閉めのペアと折り合いが悪いのだ。私の方が年下で職場歴が浅いため、基本的には言うことを聞くべき。だが立場は私の方が上なのだ。パートvs中途社員、もしかしたらよくある構図なのかもしれぬ。今日も一戦交えてきた。私が部屋の扉を閉めておらず(別に閉めなくても良い扉)、パートはわざわざ閉めに行った。「ありがとうございます」と返した私に、「いつも閉めてないよね」と返すパート。
 わぁ思い出しただけでウザい。「すみません」と、とりあえず言う私。パートは「そんな軽く言われてもね……」と言ってきた。え、なに、土下座でもしろってか? そもそも早く帰りたいんじゃ! 定時過ぎとるわ!! そんなに閉めて欲しけりゃ、「これからは閉めるようにして」の一言で済むやろがい!!!

 そう、このババ……パート、嫌味ったらしいのだ。数十年間、そういう生き方しかしていなかったのか、どうやらマトモな言い回しを知らないらしい。確かに、奴の言っていることが間違いだとは言わない。ただ、それはどっちでもいいことだったり、場合によっては私が合ってたりすることもあるわけだ。嫌味っていうのは損しか生まないんだなぁ……。「人の振り見て我が振り直せ」とは、良い言葉である。私も肝に銘じなければ。
 ……あれ、もしかして私も、私もやったことに対して、ちょっと嫌味っぽい気がするぞ。

攻撃性の高い相手の言動に心が疲弊しないよう、あんな言い方をした

 やだ、気付かなかった……。確かにあの時の「すみません」は、ちょっと大袈裟に書くと「すみませ~んッ」ってニュアンスだったかもしれない。なぜそんな言い方をしてしまっとんだろう。……きっと、真摯に向き合い過ぎると、心が疲弊するからだ。私の指導係ならまだしも、奴はそんな立場ではない。指導係ではないということは、私の今後に責任を持たなくてよい立場だ。私が泣こうが喚こうが、仕事を辞めようがどうでもいい。だから感情の発散に私を使う。言葉は乱暴だし、心を気遣うこともない。そんな攻撃性の高いものを真正面から受け止めていたら、心が持たないのだ。そうか、私、傷ついていたんだな……きっと嫌いな人に傷つけられて、プライドだけでも守ろうと、嫌味や怒りに変換していたんだ。なんていじらしいの、私。いたいけだわ。

 そう思ったら、ちょっと申し訳なくなってきた。私も嫌味で返していたのに、嫌味がムカつくってキレるのは筋違いだ。今なら、言えるかもしれない。心に仕舞い込んで拗らせていた感情を、素直な気持ちで。この場を借りて失礼します。〇〇さん、聞いてください。

 あんたのガキみたいな態度にオトナな対応できなくて、すみませ~んッ(舌を出しながら)。