拝啓
厳しい寒さが続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。
さて、突然ですが質問です。先生は約15年前に私へ向けて放った言葉を憶えてらっしゃいますか?きっと憶えていないと思うので、この場を借りて少しお話させていただきます。

指揮棒を譜面台に叩きつけながら頂いたお言葉、今もよく覚えています

それは私が中学生のときです。私は先生が顧問をされている吹奏楽部に入部していたため、音楽の授業以外にもお世話になっていました。
部活のときには、先生は自分がクラリネット奏者であるからか木管の子には優しく、私たち金管やパーカッションに対しては厳しく指導されていたように思います。あれは「えこひいき」だと捉えていたのですが、間違いないでしょうか?
トランペットを担当していた私も随分たくさん怒られた記憶があります。リズムが合っていない、ピッチが高い/低い云々…指揮棒を譜面台に叩きつけながら言われた言葉は、枚挙にいとまがありません。もっとも、それらの言葉は私も指導の一貫だと捉えていたため「なにくそ」と思っていました。落ち込むこともたまにはありましたが、心が傷付くというものではなかったです。
ただ「あなたの性格はトランペットに向いていない」と言われたのは衝撃でした。確かに私は地味で根暗なタイプです。トランペットの明るく華々しい音色に似つかないのは認めます。しかし、トランペットが好きで毎日練習に励んでいる生徒に向ける言葉だとは思えません。その時も「なにくそ」と思い、その後は一層練習をした気がするので結果オーライかもしれませんがね。

ここまで色々書きましたが、まぁ正直部活のときに言われたことは大して気にしていません。当時のことは、今となっては爆笑必至の中学時代の良き思い出ですから。楽しい思い出をありがとうございます。

部活のときよりも、私の心に今でも残るひと言を言われたのは音楽の授業での出来事でした。

どんなに努力をしても、あなたの口から出るのは否定の言葉だけだった

忘れもしません。あれは中学3年生の秋。10月に行われる合唱祭に向けて練習していたときのことです。
各クラスが学年ごとに指定された課題曲と、自由曲の2曲を練習していましたね。私は課題曲のピアノ伴奏を担当していました。
合唱祭本番が10月ですから、夏休み中も受験勉強と並行しつつ毎日ピアノとも向き合っていました。上手く弾けない部分はスムーズに弾けるまで何度も繰り返し練習し、夏休みが明ける頃には概ね暗譜できる程度まで仕上げることができました。

音楽の授業では、ピアノも合わせて練習しました。校内行事ではありますが、最優秀賞を目指してみんなも私も一生懸命でした。先生も、部活のときほどではないものの私達のクラスにも指導してくださいました。
そして伴奏である私に対しては、ひと言、こう仰いました。

『あなたの伴奏が1番ひどい』

憶えていますか?きっと憶えていないでしょうね。先生にとって私は、顧問をしている部活の・お気に入りではないパートの・向いていない楽器をやっている・冴えない生徒の1人でしょうから。だから何を言っても良いと思ったのでしょうか?
こう言われた私の方は、それはそれはショックでした。夏休み中も一生懸命練習して暗譜までできるようになったのに。指揮のテンポからずれることもなかったのに。ミスタッチも無いように弾いたのに。これまでの努力が一瞬で打ち砕かれたような感覚でした。
先生は、私が吹奏楽部だったからより高度で音楽的な要求をしたかったのかもしれないと、今となっては思います。しかし、具体的なアドバイスだけいただくことはできなかったものかと、モヤモヤした気持ちは拭えません。(もしかしたら上記の言葉の前後に何かアドバイスがあったのかもしれませんが、私はまるで記憶にありません。)

今、あなたは私の立派な反面教師として役立っています

先生から上記の言葉を放たれた日は、帰宅すると堰を切ったように声を上げて大泣きし、母と姉をうろたえさせてしまったことを記憶しています。通っていたピアノの先生からも「そんな人格を否定するような言葉は気にしなくていいからね」と慰められました。そしてしばらくはピアノに向き合うとあの言葉が蘇り、ピアノを弾くのが怖かったのです。

あれから月日が経ち、私も社会人となりました。教師ではありませんが、人を指導したり相談に応じる立場となりました。
あの時の言葉を受けた私には、ほんの些細なひと言が持つ力の大きさが良くわかります。決して人格は否定せず、改めるべき行動に対して具体的な助言をすることを大切にして日々職務に向き合っています。
相手に向ける言葉の大切さを教えてくださり、ありがとうございました。この点については深く感謝申し上げます。
感情的になることなく、相手にきちんと届く言葉を選んで使える職業人となれるよう今後も精進していこうと思っています。

先生からのひと言で心に傷を負った、かつてのあなたの教え子より。

敬具

追伸
とっくの昔の話を今さら蒸し返して(しかも全世界に向けて発信して)すみません。でもまぁ、これでおあいこってことで。