私は、「別れよう」の一言がいつだって言えない女だった。理由は簡単。ふったことを、後悔したくないからだ。

「好きだよ」といった私に、「俺も好き」と言ってくれた

初めて付き合ったのは中学生の時。隣の席の男の子だった。一目ぼれだった。声が好きだった。中学生の恋愛なんて、ただがむしゃらで、純粋で、そして圧倒的に、黒歴史。
好きすぎて嫌いになりそうで、別に友達でも何でもないのに、付き合ってもないのに好き勝手妄想して、病んで、そんな自分に嫌気がさして、彼に告白した。
「好きだよ」といった私に、「俺も好き」と言ってくれた。
理解してくれる人なんて1%以下かもしれないけど、てっきりふられると思っていた私は“これからどうすれば良いんだろう?”なんて、告白の答えがYESだったことに困惑した。

今の時代からは考えられないかもだけど、当時は携帯を持っている中学生なんてほとんどいない。私は携帯なんて持っていなかったから、告白したのは家の固定電話からだった。「携帯、言えば親が買ってくれるけどどうする?」と電話越しで私に尋ねた彼に「買わなくて良いよ」と言った。携帯を買った理由が“彼女と連絡をとるため”なんて、私たちが別れたらどうするんだろう?って、真っ先に頭をよぎった私は薄情者かもしれない。

私から連絡しなくなって、彼からの連絡を無視して、自然消滅した

中学に入学して彼が隣の席になってから1年以上ずっと片思いだったのに、彼と付き合った期間はたったの3か月だった。中学生のころはお小遣い制でもなくてアルバイトなんてもちろんできなかったから、彼とまともにデートしたのは1回だけだった。お互い緊張して、手もつなげなくて、彼の一歩後ろを歩く。ただそれだけで幸せで、どうにかなってしまいそうだった。今でも容易に思い出せる。待ち合わせ場所に早く着いたのに、彼が既に待っていたこと。一緒に食べようと家から持参したお菓子が一緒だったこと。

そして、「別れよう」が言えなかったこと。

突然だった。私は直接見た訳ではなくて、彼がクラスメイトの女の子に手を上げた、という話を聞いた。事実だった。その夜見た夢は、彼から手を上げられている夢だった。痛くて、悲しくて、でも好きだからどうして良いか分からなくて。手を上げられた。身体以上に、心が傷付いた。その胸の痛みがあまりにもリアルだったから、夢か現実かもわからなくなってしまった。好きだった。でもどうして良いかわからなくて怖かった。いつか私も手を上げられるんじゃないかって、そんな人じゃないって頭では分かっているのに、恐怖の方が勝っていた。そしてそれが、全てだった。

私から連絡しなくなって、彼からの連絡を無視して、そして、自然消滅した。私は、「別れよう」の一言が、言えなかった。

彼が「別れよう」と言ったとき、どこか安心した私がいた

次に付き合ったのは、高専の時。やっぱり一目ぼれで、良いなと思って、お付き合いを始めた。一緒に勉強したり、旅行に行ったり、散歩したり、初日の出を見に行ったり、寝坊して呆れられたり。彼と付き合った期間は5年間だった。長く付き合っていると、情なのか、好きなのか、分からなくなった。でも、彼を失うことは考えられなかった。

まだ、好きだという気持ちがあるのなら「別れよう」と言った方が後悔する。好きだから。好きだったから。だから、彼の気持ちが離れていって、私のことなんて好きじゃないって分かっていたのに「別れよう」が言えなかった。言ってあげられなかった。

5年と1か月と6日目、電話口で彼が泣きながら「別れよう」と言ったとき、どこか安心した私がいた。きっとお互い限界だったのに、言わせてしまった。

「別れよう」の一言が言えなかった。
「別れよう」と言って、後悔したくなかった。
私は、「別れよう」の一言がいつだって言えない女だった。