夫のほっぺが好きだ。
その柔らかさに、私は夢中。
触ったときのその心地よさに、私は夢中。

されるがままにぷにぷにされ、嫌がりもしないとてもとてもかわいい夫

ほっぺを親指と人差し指で挟んで、ぷにぷにと揉んでも、嫌がりもしない、されるがままの夫は、とてもとても、かわいい。

その様子は、まるで柴犬。
犬を飼ったことはないけれど、たぶん、撫でたらこんな感じになるのだろう。

夫は背が高い。立って隣に並ぶと、ほっぺには手が届かない。届きそうもない。
けれど座って横に並ぶと、手が届く。
私は立っているときにはぷにぷにできなかった分も含めて、思う存分ぷにぷにする。

そこも含めて、私は夫のほっぺを触るのが好きなのかもしれない。外では届きそうもないほっぺが、家なら届く。
その特別感に、自分が夫にとって特別だと感じられるそれに、私は夢中だ。

夫のほっぺを初めて触ったのは、いつだろう。覚えていない。
でも、夫と初めてデートをした時の彼の様子は、ありありと思い出せる。

初デートの日、子どもが入れそうなくらい間を空けてゆっくり歩いた。

私たちは、都心の公園で待ち合わせをした。そこは都心にありながらも、明るくきれいで、人はあまりいない小さな公園だった。
待ち合わせ場所に最初に着いたのは私で、その数分後に彼はやってきた。首にマフラーを巻き、その先端は左右に垂れていた。けれど片方が首から取れかけていて、今にも外れそうだった。
彼が来て、私が最初に目にしたのは、その乱れたマフラーだった。彼が羽織っている黒のコートも、わざと肩を抜いて着ているかのように、だるっとしていた。
彼は、「寝坊をして走ってきた」、と言った。その時はじめて彼の顔をちゃんと見て、確かに彼は寝坊をした人の顔だと思った。眠気と焦りが混じった顔だった。
今の私なら、彼のマフラーとコートの襟を整えるけれど、当時の私たちはもちろんそんな距離感ではなく、私は何も言わずにいた。

彼が予約してくれた和食屋さんに行く道を歩きながら、彼と話をした。
彼の語り口調は勉強ができる人のそれで、それは典型的で、彼は話しながらも何かに焦っているかのようで、つまりわかりやすく言うと、彼の語り口調はダサかった。
語り口調だけじゃなく、雰囲気も同じようだった。きっと彼は、寝坊をしなくても、乱れたマフラーを首から下げていただろうと思った。
隣に並んで歩くと、彼の背の高さがより一層感じられた。平均身長ほどの私は、少し見上げないと、その顔が見られない。
もちろんほっぺなんて全く届きそうもなく、触るような関係でもなく、私たちは、小学生の子どもが入れそうなくらい間を空けて、ゆっくり歩いた。

ほっぺを触らなくても全部可愛く、私は今日も夫の可愛さに夢中

あの日、初めてデートをした日から何回かデートを重ね、私たちは付き合うことにした。
それからまた何回もデートを重ね、私たちは結婚することにした。
結婚して同じ家に住んでいると、彼が家にいる時は、いつでもほっぺを触れる。

初めてデートをした日、彼の語り口調や雰囲気をダサいと感じたけれど、ほっぺを触るようになってから、そこも可愛いと思い始めた。
いや、それどころか今や、彼の、マフラーやコートが乱れていても気にならないところそのものを、可愛いと思っている。ほっぺを触らなくても思っている。
ほっぺが可愛いから、他の部分も可愛く見えていたと思っていたけれど、もしかしたら彼は、元から可愛い人なのかもしれない。
私は今日も、夫の可愛さに夢中だ。