同じ言葉を掛けられても、言われる人によって感じ方が異なることがある。
「あなたは十分頑張っているよ!頑張りすぎなくていいんだよ」
私のことを深く知っている人から言われたとしたら、涙が出るくらい嬉しい言葉。しかし、私のことをそこまで知らない人から言われたことがある。なんて薄っぺらな言葉だったのだろう。この言葉が原因で恋の始まりを自らシャットダウンしてしまったことがある。もしかしたら、当時の私が、素直に受け取れなかっただけなのかもしれない。

仕事に追われる日々の中で出会った彼

6年前。社会人1年目。大学を卒業して、社会の厳しさを目の当たりにしていた。毎日必死で目の前の仕事をこなしていた。頑張っても頑張ってもうまくいかない。無力な自分に嫌気がさした。弱音をはくと、すぐに心が折れてしまうことは、分かっていた。だから弱音をはかないと決めた。そんな時に心の支えになっていたのは、女性アイドルだった。
「泣くのも笑うのも自分次第、絶望は弱虫の言い訳」というような歌詞を自分に言い聞かせて毎日戦っていた。

女性アイドルグループのライブに行くと必ず出会いはある。SNSでしか繋がっていなかったヲタク同士の交流。こんな事がきっかけで1人の10歳程年上の方と知り合った。ライブで一度しか会った事はなかったが、メッセージのやり取りを始めると、すぐに私に好意があることは分かった。
偏見かも知れないが、ヲタクというのは特殊な生き物。女性と話すことは慣れていないが、握手会では、一般女性よりも格段に可愛いアイドルの女の子と、制限時間が決まっている中でコミュニケーションが取れるという必殺技を持っている。だからこそ、すぐに私に気があることは何となく分かったのだと思う。

彼からすぐにデートに誘われた。私は彼にまだ心を開いていなかった。元々周りの人に本音を話すことが苦手な私。だから、彼に仕事では必死にがむしゃらにやっていること、自分の無力さを感じていることなどは話せる訳がなかった。ただ、毎回の返信で何となく「仕事が大変そう」と感じ取ったのだと思う。

一言でデートをキャンセル。けれどその直感は正しかった

デートの前日、私は仕事で上司からひどく怒鳴られた。涙が止まらなかった。「もう辞めたい…」。
いつもは強気な歌詞のアイドルソングが、この時は励ます歌詞に変わっていた。
SNSで「もうダメかも…」とつぶやいた。
それを見た彼からのメッセージ。
「あなたは十分頑張っているよ!頑張りすぎなくていいんだよ。明日は気分転換に楽しもう!」
この言葉に私はなぜかイラっとしてしまった。あなたに何が分かるの?私の頑張りを知らないでしょ!?
そして、彼は私に好かれたくて寄り添っているのだと感じてしまった。そんな薄っぺらな言葉をかけてほしくなかった。お互いのことをまだよく知らない人には特に。
「ごめんなさい。体調が悪いので明日はキャンセルさせて下さい。」
そこからの彼のメッセージは全て無視をしてしまった。

今思えば、彼は本気で私を心配してくれていたのかもしれない。当時の私は目の前の事に必死で、周りに優しくすることも、周りからの優しさに気がつくことも出来なかった。かなり尖っていたと思う。本当に生意気な社会人1年生だった。
この時から、周りの人が落ち込んでいる時の声の掛け方は、相手の立場に立って深く考えるようにしている。

この話には続きがある。数ヶ月後、彼のSNSにある投稿があった。彼女と私の地元に遊びに行ったとのこと。一人で行ったのだと分かった。写真も明らかに一人。好きだった人の地元に今の彼女と行くなんて考えられない。私の地元は有名な観光地でもない。少し恐怖を感じた。
さらに1年後、彼から「嘘のツイート」についての謝罪のメッセージが届いた。予想通り、私の気を引こうと1人で私の地元に行ったとのことだった。
こうやって「普通の人」が「ストーカー」になってしまうのだと思った。今は、仮病を使ってデートをドタキャンをしてしまったことは、申し訳ないと思っているが、恋が始まらなくて良かったと思っている。