「試しに付き合ってみようか」から「もう終わりにしたい」までの1年半。
私たちは間違いなく互いの存在に惹かれ合っていたと思う。
大好きだったけど、しんどかった。別れてほっとした。そんな昔の痛い初恋の話を少し。

キスはレモンの味って雑誌のコラムで読んだことがあったけど

高校3年生の夏、少し大人な彼に出会った。
退屈だと思ってたボランティア活動先の職員だった彼。みんなをまとめて、テキパキ働く姿が素敵で、今まで出会った誰よりもかっこよく見えた。彼に「好き!」を感じるようになるのにはそう時間はかからなかった。
突然やる気に満ち溢れた私は、打ち合わせや雑務に打ち込んで、彼と会えるチャンスをひたすら探しまくった。何気ないやりとりや一緒に過ごす時間が幸せでたまらなかった。

そんな日々を過ごしながら、ただのボランティアの学生である私と彼の距離を縮めてくれたのはある雨の日だった。ボランティア活動の帰り道、後片付けに追われ、1人居残り。いつも通り自転車で帰ろうとしたが突然の雷雨に見舞われてしまった。どうしようもなく玄関で立ち尽くしていると、奇跡的に現れた彼。幻かなと思っていたが、どうも忘れ物を取りに来たらしい。顔を見合わせて笑い合って、全てを察してくれた。「家まで送るよ」と。
最終バスも出たし、何よりも嬉しすぎる状況。断る理由は一つも見つからなかった。車の中は、聞いたことのない洋楽がかかってて、いつも彼からふわっと香るラベンダーの香水の匂いでいっぱいだった。緊張しすぎて何を話したかは覚えていないが、嬉しくてたまらなかった。

これがきっかけとなり、ボランティア以外でも会うようになった。友だちとは行かないおしゃれなカフェに行ったり、休みの日には、今まで親としか出かけたことのなかった場所まで連れて行ってくれたりした。
何回目かのドライブの帰り道、小学生のころからよく遊びに来ていた公園の駐車場に停まった。見慣れた景色がいつもと違って見えたのは、夜遅くて街灯がキラキラしているせいなのか、それとも彼が隣にいるからなのかはわからなかった。そんなことを考えているときに彼から言われた言葉、「試しに付き合ってみようか」。
さっきまで考えていたことがどうでも良くなった。ラベンダーの香水の、やわらかい匂いに包まれてはじめてのキスをした。キスはレモンの味って雑誌のコラムで読んだことがあったけど、思ったよりも生々しい感触に戸惑ったのをよく覚えている。

ある日、彼から大切な話をしたいと言われた

それからは休みの度にデートをした。親には外出が多くなりかなり怪しまれた。親の視線が気にならないくらい、当時は本当に彼に夢中だった。
遠くの遊園地、夕暮れの海、2人で出かけるときはいつも知らない世界に足を踏み入れたみたいにわくわくした。一緒にいるのがすごく楽しい。もっと一緒に居たい。

そして、楽しいお付き合いの関係が少し崩れていったのもこの頃。
ちょっとしたことで彼の機嫌が悪くなっていった。電話に出られないと「別れる」、メールの返信が遅いと「男といたのか」。
彼からの連絡にいつでも答えられるように携帯にかじりついていたし、友だちよりも彼を優先していた。友だちに、「別れた方がいいよ」と言われても、悪く言わないでほしいという気持ちになった。「彼のこと何も知らないのに」って。

でも、友だちの助言が正しいと思える事実が発覚した。彼から大切な話をしたいと電話越しに言われた時のことだった。
「俺には別居中の妻と子どもがいるんだ」
初めて人を好きになって、初めて彼氏ができたと思ったら、私は知らないうちに不倫相手になっていた。それを聞いてもすぐに別れられなかった。私もだいぶ彼にのめりこんでしまっていた。

ずるずる関係は続き、束縛されても我慢した。彼のことが好き一心で。想い続けていればいつか報われるんじゃないかと思っていた。
でも何をどう頑張ってもこれは不倫。好きなのに、彼には奥さんが居て子どもも居て、気持ちはぐちゃぐちゃだった。

一つずつ落としてきた「好き」だったことを、また拾い集めてみた

そんな恋愛もようやく終わりが見えてきた。私が進学で地元を離れて、彼から少し離れられたことがきっかけだった。
今まで生活してきた田舎とは違って、ちょっと都会の街は何もかもが新鮮だった。大学生活は、ゼミに、サークルに、バイト。気の合うたくさんの友だちもできて、彼の束縛に答えるには毎日忙しかった。
理由は忘れたけど、彼をまた怒らせてしまった時に、「もうおわりにしたい」と告げた。彼はすこし困惑していたみたい。従順な私から別れを切り出されたからだと思う。そのあとは、楽しかったデートとかを思い出してひとしきり泣いた。

このエピソードを思い出すのはいつまで経っても少し苦しくて、あまりに若くて痛くて恥ずかしい。彼の家庭のことを思うと本当に悪いことをしてしまったと今でも思うし、誰もこんな不毛な気持ちは味わうべきではないと思う。
私が彼をふった理由。不倫だったから。そうだけどそれだけじゃない。
私は悲劇のヒロインでもない。私が、彼の世界から抜け出さない道を選んでいた。だから、私が彼をふった理由は「彼にのめりこみすぎた自分が嫌いになったから」かな。

自分の世界に戻ってみて、悪いことは何もなかった。携帯も時間も気にせず、目の前の友だちと遊ぶのがこんなに楽しかったんだと気が付いた。行ってみたい街に行って食べてみたいものを食べるのがこんなに面白いんだって気が付いた。
彼と一緒にいるのが忙しくて、一つずつ落としてきた「好き」だったことを、また拾い集めてみた。見失っていた自分が戻ってきた気分。この若くて痛くて恥ずかしい経験のおかげで、自分の大好きな世界を見失わないようにすることが出来ていると思う。

次の恋は、好きなことを両手いっぱいに抱えたまま、押し付け合うんじゃなくて、お互いを尊重して、一緒に新しい世界を築ける人を見つけてね。振った理由も振られた理由も語れない関係を目指して。