それは配属されて、初めての賞与評価での出来事だった。
私の上司は50代後半の男の人で、家族もいるけれど仕事に集中して打ち込んできた、そんな感じの人だ。
上司との面談で、評価の紙が手渡された。通常、何事もなく普通に過ごしていればC、大きな成果を残したらAとかB、成績が悪ければ、CマイナスとかD。いままで学校でもらってきた通信簿みたいな、そんな感じだった。
評価の基準は能力ではなく「別のところ」にある気がした
事前に評価はどんな感じだったかを先輩に聞いていた。先輩は「私はずっと評価が上がってきているよ。でも、中にはCマイナスの人とかもいるみたいだけど……」と言っていた。私はそれを聞いて、それならCくらいかなと予想していた。
評価の紙を開いて、一瞬時が止まった。
「Cマイナス」
なぜ? なぜ?? なぜ??? 驚きのあまり、何秒かフリーズして声が出なかったと思う。上司に「報告・連絡・相談が出来ていないから。それが理由で能力評価を落とした」と言われた。
どういうこと? それなら、出来ていないと感じたタイミングで指摘すれば良いのでは? 業務をしていて、一度もそんな事は上司から言われた事はなかった。だから何か嫌な予感がした。原因は、別のところにあるのではないか。
私は賞与評価が出る少し前に、妊娠が発覚した。かなり遠回しに、そういったことと関係があるのか? ということを上司に聞いた。さすがに「はい、そうです」とは言わなかった.
あまり詳しいことは覚えていないが、のらりくらりとかわされて、私自身の業務に問題があると言っていたような気がする。
ただ、たった一言、最後に言った本音だけは聞き逃さなかった。
「だって、それだけの額があれば夫婦2人で十分でしょ」
衝撃すぎて、しばらく上司を見つめていたと思う。それだけの額とは何なのか。どういう基準で、どうしてそれで評価を変えて良いと思ったのか。あまりの出来事でショックでたまらなく悔しくて、帰ってからも 、そしてしばらく経ってからも思い出しては泣いていた。
結婚しても子供が生まれても「働く」よ!だから、寄り添ってほしい
この後の話だが、解決するために何か出来たのかというと、完全に迷宮入りである。会社にもコンプライアンス窓口は設置されているが、ためらってしまった。
理由は、怖かったから。今回のことを実名で告げることで、上司から別の形で報復される可能性がありそうで怖かったから、言えずに終わってしまった。
そして、SNSを見ていると私と似たような経験をしている人が多いことを知った。どうしたら、そのような状況が変わるのか。
私は、理解のある上司が必要だと考えている。今の時代は、女性も結婚しても子供が生まれても、子育てしながら働いていくというのが増えてきている。
まずそれを理解してほしい。女性は、結婚したら家庭に入るものだとか、子供ができたら仕事はできないだとか、ステレオタイプな考えを捨ててほしい。そして、寄り添ってほしい。
法律が変わっても人の考え方と行動が変わらないと、環境は変わらない
昔ながらの家族像をいつまでも持ち続けて、他人に押し付けるのではなくて、時代が変化するのと同時に家族像も個々で異なり、変わってきていることを知って、そういう人たちに寄り添ってほしい。
いくら法律をつくっても、会社内でコンプライアンス規定を定めても、その中で生きる人の考え方と行動が変わらないと環境が変わらないのである。
私は、真面目に直向きに真摯に、仕事をこれからも取り組もうと思う。だからこそ、私も頑張るから、その分上司や周囲にもいい変化が現れることを期待したいのである。