私しか女関係がないのはかわいそう?彼の浮気を踏み台に前進します

「何で別れちゃったの?」
一言で表すなら、彼が浮気したから。だけど、きっとそういうことではない。彼が浮気をしたことがわかった時、私はすぐに別れを決められなかった。浮気をされたという事実がこの人と別れたいと自分に思わせているとは思えなかった。今まで見て見ぬふりをして過ごしてきたことと向き合わなくてはならない時が来たのだと思った。
私たちの出会いは飲み会の席。初めて会った彼には、久しぶりノリの合う人に会えた、と思った。彼も同じように思っていたようだった。流れるように私たちは付き合った。
将来に迷っていた二人は、いつも同じように悩み苦しみ癒しあった。新しい挑戦を二人ですることを決めた。そして二人で成功への第一歩を踏み出すことができた。私たち二人は、いつも一緒だった。同棲もすんなりとし始めていた。
私たちは二人して、“あなただから”一緒にいるのではなく、“自分の夢のために”一緒にいた。同じ夢に向かって頑張る二人は、それはそれは仲良く見えるカップルだった。誰からも邪魔なんてされなかった。自分の将来のために一緒にいるのだから、それ以外にどんなにいやなことがあってもどんなにすさまじい喧嘩をしても、それが別れる理由には、私たちの場合はならなかった。
私たちは、離れてはいけないと思い込んでいた。
彼は、私に対してだけ当たりが強かった。私の手足を利用する権利がまるで彼にあるかのように私と接した。それに対して私は何も言えなかった。毎日苦しいけれど、自分が見て見ぬふりをすれば、自分が耐えることができれば、日常を無事にやりすごすことができる。
何度か知り合いに、彼のことは本当に好きなのかと聞かれたことがある。はっきりと、好きですよ、とは答えられなかった。よくわかりません、でも今は一緒にいようと思っているから、一緒にいます。そう答えていた。
彼の浮気に気づいたとき、あまり気にしなかった。すぐには問い詰めなかった。私だけしか彼に女関係がないのはかわいそうなことなのではないかとすら思っていた。
だけど、自分が一番の存在ではないことが日々の行動や言動にあらわれるにつれ、浮気されることとはどういうことなのか、身に染みてわかるようになった。自分の存在を否定されている気分を味わった。
私たちは付き合っているのだった、と思い出した。離れるわけないと信じ込んでいて、自分の近くに彼がいることを信じて疑っていなかった。でも現実は、彼が浮気をしていて、想像よりはるかに浮気相手との関係が密になっている。
彼と話すと、泣きながら謝ってきたし、私のことが一番に大好きだと言ってくれた。このときやっと気づいた。もうずっと前から私は、彼からの大好きに対して心が動かなくなっていた。
私は彼への大好きの気持ちをいつの間にか忘れていた。それでも、泣かれても、自分の気持ちに気づいてもなお、離れてはいけないという呪縛からは解き放たれていない自分がいた。私以外の女性がいる彼との今後の付き合い方しか、はじめのうちは考えられなかった。
しばらく考えて出した結論は、結局別れることだった。
自分を苦しめている目の前の男とこれから何十年も共に過ごすことは正気な選択なのか、冷静に考えた。絶対離れるべきだ。浮気されたからとかではなく、目の前のこの人との日々を思い返して、そう思った。彼が浮気している今がチャンスだ。正当な理由をつけて、今までの思いをわざわざ言葉にせずに楽に離れられる。離れてはいけない呪縛を解き放つまっとうな理由にもなる。
私は彼に別れを告げた。浮気したあなたと一緒にいるのは辛いから別れてください、と。
私は、私らしい人生を歩むために、あなたの不貞を踏み台に使った。今私は幸せに生きている。
私といなくてはいけない呪縛から解き放たれた彼も、きっと幸せだろう。
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