大好きだった。とてつもなく大好きだった。愛を知った。

生まれて初めて、家族以外の人を愛することを知った。初めての愛を最初で最後と思い込んでいたから、ずっと私たちはこのまま結婚するんだと思っていた。私の愛する人たちに紹介したのも彼が初めてだった。何もかもが新鮮で、毎日が眩しかった。

離れていても毎日連絡を取り合て、彼のぬくもりや優しさ思い出した

彼となら何が合っても大丈夫、そう自分に言い聞かせながらも、別れの日は刻一刻と近づいてくる。そう、私たちは出会った頃から、別れることが決まっていた。

時がくれば私は、約9,000kmも離れた異国の地へと旅立つのだ。それでも彼が私と付き合ってくれたのは、紛れもなく私のことが好きだったからだ。限られた時間の中で、私たちはたくさんの宝ものを作った。二人だけの城を築きあげた、そんなふうに思っていた。

楽しかった日々もあっという間に過ぎ、一緒にいた頃の思い出をたくさん抱えて、私は異国の地でがむしゃらに頑張ると決めた。時差を超え毎日、毎日連絡を取り合った。もちろん、電話だってたくさんした。その度に彼のぬくもり、優しさ、匂いを思い出していっぱい泣いた。

辛い時は、彼からの手紙を何度も読み返した。お世辞にも上手とは言えない字と彼にしか描けない私の似顔絵、全てが愛おしくてぎゅっと胸を締め付ける。失恋に似た胸の苦しさだった。人の失恋するときの胸の痛みは本当に心が痛んでいるから、という記事をどこかで読んで以来、胸がぎゅっとなる度にその話を思い出す。別に私、失恋してないのに。

やっぱりこの人しかいないと思っていたのに…上手くはいかなかった

当時の私は、孤独だった。知らない地で一人、頑張らなくてはいけなかった。だけど、そんな私を「今度は俺が支えるから」と言う彼の言葉に救われていた。

実は私が留学する前、彼もまた異国の地に短期留学をしていた。知らない地で、孤独さに挫けそうな彼を日本から懸命に支えていた。かつて異国の地で孤独だった彼は「今度は俺を頼ってね」と言ってくれた。

私にはやっぱりこの人しかいないと思った。離れ離れになってもなお、私たちは私たちの城を築き続けていた。周りから見たら幸せの絶頂にいるかのように見える私たちでさえ、そう上手くはいかなかった。

この遠距離さえ乗り越えられれば、大丈夫。何が合っても私たちなら乗り越えて行ける。そう自分に言い聞かせながら、ケンカの絶えない日々に私は泣いていた。いつの間にか幸せではなく、苦しみに心を締め付けられていた。

いつからか彼は、ケンカをすると無視をするようになり、暴言を吐くようになった。あまりの別人ぶりに恐怖すら覚えた。そして気づいたら私は私ではなくなっていた。

私が可愛くないから「可愛い」って言ってくれないんだ。私がいい彼女じゃないから、彼を怒らせるんだ。

ケンカをする度、そう思い込んでしまう自分がいた。彼の態度は日に日に酷くなり、人格を否定される言葉を浴びせられ、ついには心がぐちゃぐちゃになってしまった。

それでも愛していた。初めて愛した人だったから、離したくなかった。だから、私はずっと彼の黒い部分に「人間だもん、仕方ないよね」と目を瞑り続けていた。でも、彼の黒い部分は確実に私を蝕み、大好きな彼と付き合っている自分のことがどんどん嫌いになっていた。

どんどん自分のことが嫌いになっていく。この恋を終わらせなきゃ…

そんな私、本当は気づいていた。終わらせなきゃいけない恋だって。良くないことも分かっていた。

ある時にプツリと、私の中の何かが切れた。ああ、もう別れよう。私何してんだ。こんな男の為に自分を犠牲にする必要ないじゃん。ズルズルと続けた不健康な恋ももう終わり。私は、ついに別れを告げた。

二人で築いていたと思っていた城は、勝手に私が築いていただけだったことに気づいた時、また胸が苦しくなった。

でも、今回の私は泣かなかった。別れる前からすでに失恋していたらしい。ボロボロな私も別れる頃にはすっかり強くなっていた。そのかわり、ドライフラワーにして部屋に飾っていた彼に贈らせた花はボロボロにして外に撒いた。

さよなら、私の好きな人。私に良く贈らせた花を見て、ふと私のことを思い出して苦しめられますように。私は、今以上のキレイな女になります。さようなら、私の愛した人。