昨年末のある日、携帯がピロンと鳴る。
普段、あまり連絡を取る方ではない私。そこに一通のLINE。
「今更だけどひどいことをした。ごめん」
昨年3月に別れた元旦那からのLINEだった。
なんでいまさら謝ってきたの? 何に謝ってるの? 
だって、あのとき開き直ったじゃない。裏切ってしまったなんてみじんも思ってなかったじゃない。そんなに簡単に謝られても困る。

離婚した理由は、彼の不倫だ。それも私の友人と。
気づかなければ、もしかしたらいまだに結婚生活は続いていたのかもしれない。
けれど、結婚式をして半年も立たないうちに、気づいてしまったのだ。彼が不倫をしていることに。
発覚したとき、私はドキドキが止まらなかった。けれど、「やっぱりか」という気持ちもあった。というのも、彼の不倫がわかった瞬間に、いや、その前からなんだか影が濃くなっていくような不気味さをときおり感じていたのだ。

気づいてしまった以上、もう後戻りできないと思った。怒りもない。呆れてもいない。ただ、自分の感情がフリーズして、ドキドキしながらも変に冷静になってしまった自分がいた。
問い詰めると、嘘をついてごまかそうとする彼。根掘り葉掘り事情を聞いても、謝るわけでもなく。言い訳をいくらしたってやったことには変わりはない。私には何も届かない。もう遅い。もう遅いよ。修復不可能。そんなこんなで、あっさり離婚を決意した。

一緒に過ごしてきた10年。私は彼に自分を伝えられていただろうか

離婚の手続きで揉めて、友人に相談すると、みんな怒ってくれて、泣いてくれる人もいた。でも私は泣けなかった。こんなことになってつらくて悲しいはずなのに。怒ってもいいはずなのに。
ああ、10年も一緒に過ごしてきた日々はなんだったんだろう。
結婚も視野に入れて就職先も考えたし、貯金もした。会う時間をできるだけ作って、結婚してからも彼が夜遅くまで遊ぶのを許容していた。お金に関してもお互いノータッチ。自分で言うのもなんだが、まあまあゆるい奥さんだったと思う。

けれど、10年の日々で私の気持ちをしっかり伝えられてた? 嫌なこと、疲れたとき、助けて欲しいとき。なかなか素直になれなくて察してもらおうとしてなかった? 
自分は、相談したり頼ったりということがうまくできない。思ったことをしまいこんでしまうクセがずっとあって。
とにかく自分を開示するのが苦手で、流されてしまう。一方で、彼もそういう傾向があった。だから、ぶつかったり話し合ったりすることが成立しない。たとえぶつかっても許容しあうのではなく、私が彼の顔色を見て折れる。
そういう結婚生活だったのだ。

なんで気持ちをぶつけ合ったり、すり合わせたりしなかったんだろうか。ふと自問自答してみた。
ああ、私は怖かったんだ。自分を開示して嫌われたり、めんどくさがられるのが。
それに気づいたとき、自分がうまくやっていると思いこんで、彼と積み上げてきた10年の関係性がガラガラと崩れていった。

やっと別れを悲しめる。でも彼との別れも意味があったのかもしれない

私がやっていたのは、「いい彼女」じゃなくて「都合のいい女」だったのかもしれない、そう思ったら、自分の足元がぐらりと歪んだ。10年も底無し沼にハマっていたんだと思うと、喉元がぎゅっと苦しくなった。同時に申し訳なさと悲しみとつらさが込み上げてきて、ようやく別れを悲しめると思った。つらいつらいつらい。

もうすぐ、離婚して1年になる。そして、もうすぐ、30代になる。
結局、例のLINEには返信はしなかった。この1年で私は確かに進んでいて、彼との日々は過去のものになっていると実感したから。
しばらくは思い出したくもなかったのだけど、私の20代は彼との思い出ばかりで、最近は、楽しかった日々を思い出して苦しくなる日もあれば穏やかな気持ちになる日もある。
不倫も離婚もあまりにも一大事件ではあったけど、そうでもしないと「自分を開示できない私」と対峙することはなかった。そう思ったら、許せないと思っていた彼との別れも意味があったのかもしれない。

まだ自分を開示するのは苦手だけど、そんな私とも少しずつさよならできたらいいなと思う。