私は自分が嫌いだった。自分の見た目を幼い頃から親族にいじられ、からかわれていた。気付いた頃に出来上がっていたのは、自分嫌いな、そしてそのストレスを抱えてパニック症候群になった23歳の私だった。

だけど、私は接客業に就いて毎日笑っていた。“いつも笑顔の店員さん”になっていた。

お客様から「電話番号」を渡され、私は彼に連絡を取った

そんなある日、お客様から声をかけられた。少し歳上の男性、最初は商品の説明をしていた「この人、昨日仕事仲間と来てた人だ」と、心の中で私は思った。何故覚えていたか、それは、彼がとても礼儀正しかったからだ。私はクレーマーよりも、レジの最後にペコっと頭を下げてくれる方や「どうも」と言ってくれる人を覚える癖があった。

その彼も「お姉さん、昨日もいましたよね？」と言ってきた。「はい、昨日何人かで来てくれていましたよね」と私は笑顔で返す。すると、電話番号の書いた紙を渡されて「出張で来てるんです、よかったらご飯とか行きませんか？」と言われた。そんなことに不慣れな私は心底びっくりしたが、少し格好つけて「気が向いたら、連絡します」とその紙を受け取った。彼は笑顔になり、名前も言わずに帰っていった。

出張……遊び相手がほしいのかな。彼女いるだろうな。いや、もしかしたら結婚してるかもな…と、色んなことを考えたが、最初の好印象の彼とこの時代に電話番号を差し出してくるのは、誠実な気がして話してみたい気持ちが抑えられず、2日後に電話ではなく、ショートメールを送った。

それからLINEに切り替え、何度もやりとりして電話をした。声をかけられてから1週間ほど経った時、少し会おうとなった。会って話す彼は、関西から初めて私の住む北海道へ来たこと。仕事のこと。そして、家族のことを話してくれた。関西弁でとても優しい話し方と優しい雰囲気だった。

特に家族の話をしている彼を見てると、この人は嘘つかないんじゃないかと感じた。もう、彼との居心地の良さに私は惚れていたのだと思う。「彼女いない」って言ってる彼。もちろん共通の知り合いはいないので、彼自身の言葉を信じるしかなかった。その日は少しだけ会って話して終わり、また1週間後に今度は海に行って話した。

その時に、彼はあと2か月で関西へ戻ってしまうので、遠距離恋愛になっても付き合ってほしいと告白された。すぐにOKしたい私だったが、自分の身体の事はその時の自分の難題だったので、どうにも隠せなかった。

答えを出せない私に「何かあるなら言ってほしい」と、手を握りながら彼は言った。少しずつ私が話し始めると、自然と涙がこぼれては彼が手で拭う。話し合えた時、その手で私を抱きしめ「じゃあ一緒に治そうか」と言ってくれた。正式にお付き合いすると答えて、初めて彼とキスをした。

彼は私に「安心感」を与えてくれ、自己肯定感を高めてくれた

それからの2か月は、あっという間だった。何度かデートに行った。お泊まりした時に彼は「すっぴんや薄いメイクの私の方が好き」と言ってくれて、私の外見を肯定してくれた気がして、私は自己嫌悪が少しずつなくなっていった。

初めて、こんなに、人を好きになった。2歳上で背が高くて、どこか子供らしい彼が大好きだった。

秋の半ばで、彼は関西へ帰ってしまった。年末年始に会い、ディズニーランドへ行く約束をして私たちは離れた。遠距離恋愛はしたことがあり覚悟もしていたけど、やっぱり寂しかった。彼に会いたくて、でも嫌われたくなくてあまり電話をしなかった。この時は、今頑張っていずれ彼のところに行くことになるだろうと信じて疑わなかった。彼との“いつか”を、夢見ていた。

念願の年末になり彼と東京で合流し、私がわがままを言ってお互いのクリスマスプレゼントって事で、ペアリングがほしいと言った。彼も賛成してくれて、一緒にペアリングを買った。人生で初めてだった。ほんとうに嬉しかった。

その日の夜、彼と話しながらベッドに横になり、彼の腕枕と手を握ってもらいながら私は先に寝てしまった。こんなに安心して眠れたのは、いつ以来だろう。夜中に目が覚めた時には、ちゃんと電気も消えていて彼も寝ていた。愛おしい。ただ、それだけだった。

次の日にディズニーランドで大はしゃぎし、たくさん笑って過ごして、また一晩経ったらもう帰る日だった。2泊3日のデートは、一瞬だった。離れ難くて「また会える？」と聞く私に「絶対大丈夫だから」と彼が答えた。この約束が果たされない事を知らないまま、私たちは離れた。

その後は彼の誕生日、バレンタインが重なりプレゼントを送った。すごく喜んでくれて嬉しかった。その2か月後に、私の誕生日だった。正直、来て欲しくなかった。彼はそういうものにうとかったからだ。記念日は覚えてなくてもいいから、誕生日だけは覚えてて欲しい。
そんな願いも叶わず誕生日が過ぎていった。

その頃から、私は何となく気付いていた。彼の気持ちが離れていっている事。私の重さが彼に伝わっている事。でも、どうしたらいいのかわからず、わからないと不安で悪循環だった。

わずか8か月だったけど、私は彼のこと「嫌い」になれそうにないな…

誕生日から2週間ほど過ぎて、私はあっけなく、フラれた。「ごめん、気持ちがわからなくなった」私が彼と接してきた中で、1番冷たく悲しい言葉だった。どうして？ どこから？ もう無理なの？ と、たくさん聞きたいことがあったが、私は何も聞かずに別れを受け入れた。「あなたという人間が大好きだった」と本音を伝えて、私たちは別れた。

私の、ほんとうの初恋、大恋愛はわずか8か月で終わった。

それから2年。一度も連絡を取り合わず、連絡先も削除したので連絡する術もなく、彼の情報ももちろん入る事なく淡々と過ぎていった。

「どこが好きだった？」と聞かれると、多分「全部」と答える。誕生日は忘れられたし、私が寂しさを抱えていることに気づかないくらい鈍感だったし、最後くらいちゃんと話してくれてもよかったのにと思うけど、それでも嫌いにはなれそうもなかった。

とにかく、彼が大好きだった。彼以上に好きになる人が現れるのかは、正直難しいと思っている。私は彼に何か幸せな気持ちをあげられたのだろうか。何もわからない。

どうしているのか…何も知らないまま、私は今日もひとりで過ごしていく。