「このエッセイ書いたの、もぴちゃんでしょ?」と母は言う。
心臓はどくり。と高鳴り、私はまるで金縛りにあったかのように動けなくなった。

偶然目にしたテーマを見て、どうしてもその問いに答えたくなった

私が「かがみよかがみ」に辿り着いたのは2ヶ月前の1月中旬。仕事終わりにInstagramを開くと『結婚、どう思う?』のエッセイ募集の広告が飛び込んできた。普段Instagramを開いても結婚報告や出産報告ばかりだから、出てくる広告までそんなものになったのかあ、なんて苦笑いしながら私は普段は押さないはずの広告ページをタップしていた。

サイトを開くと「読みたい」を刺激するタイトルの数々。ページをスクロールする手が止まらず、とにかく夢中になった。降りるはずの駅を2駅降り過ごしちゃうくらい。
「あ。この子今の私と同じだ」
「は~こんな風に幸せだと思えるパートナーがいて羨ましいなあ」
「価値観が私と真逆だけど、この考え方真似してみたい」

様々なエッセイを読んで、これを投稿した子はどんな子だろう、と興味がわくと同時に私も投稿してみたくなった。FP試験(ファイナンシャルプランニング技能試験)を2週間後に控えていてエッセイを書いてる場合じゃなかったけど、どうしても私は『結婚、どう思う?』の問いに答えたくなったのだ。(そのFP試験には無事合格したので本当に良かった)。

エッセイの採用が決まり、喜びは信頼できる友人4人にだけ話した

帰宅後にPCを開いて文字を打ちながらひとり、結婚について考える。
最初は出だしの言葉が全く出てこず、うーんと唸ってばかりだったけど、それが決まると水を得た魚のようにキーボードの打刻音が止まらなかった。
何度も何度も読み直して、二晩、三晩と寝かせて、投稿ボタンを押す。
投稿直後の何とも言えない達成感が最高だった。

投稿から15日後。昼食後に歯磨きしながらLINEを開くと、エッセイ採用の連絡が飛び込んできた。添付ファイルを開き、編集部からのフィードバックを読む。家族にも友人にもなかなか言えなかった自分のモヤモヤに寄り添ってくれた気がして、そのモヤモヤも抱えてていいんだよと認めてくれた気がして、読みながら涙が止まらなかった。

その日の仕事帰りには採用祝いと称してコンビニで新発売のチーズケーキアイスをご褒美に買って帰った。あれ美味しかったなあ。

それから3日後、私のエッセイは掲載された。
学生時代からブログを開設し、その日の出来事を友人が読んでくれたこともあったけど、友人以外の不特定多数の人がサイトを訪れる「かがみよかがみ」に掲載されたことがなんだか夢みたいで、嬉しくて、何度も自分のページを開いてみたり、著者一覧に自分の名前を探したりした。

この嬉しい気持ちを誰かに伝えたくて仕方なかったけど、気恥ずかしさもあったし、結婚に対する自分の気持ちをさらけ出したから、本当に信頼できる友人4人にだけ採用されたことを伝えた。全員すぐに読んで共感してくれたり、感想を話してくれたり話してよかったと心から思った。

何でも話せる母。結婚について悩んでいることは知られたくなかった

私は小さい頃からその日の出来事や嬉しかったこと、悲しかったこと、何でも母に話してきた。だから私の初めての彼氏は野球部の子だったとか、私の親友はいま宮崎に住んでるとか結構何でも知ってると思う。それくらい母のことが好きだし、私の話を聞いてくれる母につい、全部話してしまう自分がいた。

だからエッセイが掲載されたことも本当は伝えたかったけど、娘が結婚について悩んでいるなんて知られたくなくて、母には言えなかった。

そこから私は数回エッセイを書いた。投稿ボタンを押した時の達成感と、編集部からのフィードバックが毎回私の心を元気にしてくれたし、私のエッセイを読んでくれる人がどこかにいるんだよな、私の文章に共感してくれる人もいるといいな、と画面の向こう側の誰かを想うと自然と言葉も出てきて、帰宅後にPCで少しずつエッセイを書くのが日課になっていた。

母から突然の報告。あまりに驚いた私は頭が真っ白になった

そんな時に母から言われた冒頭の一言。その日私は母と妹と3人で隣の町までお蕎麦を食べに来ていた。
「お蕎麦美味しかったね」とまったりしながら、途中で妹がコンビニに立ち寄るからと母と私は車内で待っていた。その時に突然言われた母からの一言が衝撃的過ぎて、さっきまで食べてたお蕎麦の味なんてどっかいった。

どうやら母はいつも見ているまとめサイトで、私が投稿したエッセイを偶然見つけたという。それは私が2本目に書いた『あの人に謝りたいこと』がテーマのエッセイで、妹に謝りたいことを私は投稿したのだった。

バナナを投げつけるなんて、と思いながら母はタイトルに惹かれて読み進める。最初は「私の娘たちと似た姉妹もいるのね」と思っていたけどそれがだんだん、「私の娘たちのことよね」という確信に変わったという。
『私を自慢の姉だと言い、よそでは「お姉ちゃん」と呼ぶけど家族と私の前では「もんぴちゃん」とか「もーやん」とか変なあだ名を何個も作って呼ぶ妹。』の一文が決定打らしかった。

毎日新たなエッセイが次々と掲載される「かがみよかがみ」で私のエッセイを見つけるなんて、こんな偶然ってあるんだ……。
母からの一言に頭が真っ白になったけど、とりあえず妹がこのことを知ってるか確認をすると、言ってないと言われたのでそのまま秘密にしてもらった。妹が戻ってきたのでこの話はそれでおしまいになった。

「びっくりしたけど嬉しかった」と言ってくれた母に伝えたいこと

母は私のエッセイを全部読んだのか、それともそれだけ読んだのかなんて分からないし聞けなかったけど、母が言ってくれた「凄いね。お母さんも見つけたときびっくりしたけど嬉しかった」の言葉に少しホッとした。

母は私のエッセイを読んで娘の未来を不安に思ったり、母として自分を責めたりするかもしれないけど、私はエッセイを書くことで、今までの後悔や抱えてきたモヤモヤと向き合い、そこから少しずつ解放されている。だからこれからも何者でもない私だけど、自分の思いを綴っていけたらいいなと思う。

時が経ち、私が過去に投稿したものを読み返すとき、今まで嫌なこともあったけど、そんなこともあったねとマイナスなことも全部糧に変えて笑って生きていけたらいいな。お母さん、こんな私だけどこれからもよろしくね。