家を買うことにした。同性パートナーシップ宣誓も行ったし、いい機会だ、腰を落ち着けられる住処を探すか、という至極あっさりした流れだった。
大阪市内の築古マンションを買うことを決めた
家を買うとなると、まず条件を決めなくてはならない。私たちが譲れなかった条件は、立地だった。最寄り駅から近く、そしてできれば、大阪市内であること。市外に出ると、受領したばかりの宣誓書の効力がなくなってしまうので、それは避けたい気持ちがあった。
ともかく、大阪市内というのは土地が高い。通勤至便な駅チカ物件ともなればなおさらだ。どちらも物持ちなものだから、本当は収納スペースをたくさんとれそうな一戸建てを建てられたらよかったのだけれど、そうは問屋がおろさない。地獄の沙汰も金次第とはよく言ったもので、福沢諭吉が印刷された紙を何枚持っているかで許される自由の範囲が決まるのだ。社会人になって数年の女ふたりの貯金額など吹けば飛ぶようなはした金でしかなく、よって、私たちに与えられた選択肢はほとんどなかった。門戸を開いてくれたのは、築古マンションのみである。
「ここはお買い得ですよ、売主さんがリフォーム代を払ってくれるそうです」
「じゃあ買います」
とはいえ渡りに船な仲介スタッフのひと言があったので、私たちはやはりあっさりと、築古マンションを買うことを決めた。――とんとん拍子にことが進んだ先には落とし穴がある。
この話でいうところの私たちの落とし穴は「お金関係」にあった。
住宅ローンをふたりで借りて、一緒に返していくつもりだったけど
家は人生で一番大きな買い物だという。だから大体の住宅購入者は住宅ローンを組む。共働きの夫婦なら、候補に挙がるのはペアローン、連帯債務型ローン、連帯保証型ローン……ふたりで借りられる住宅ローンだ。私たちも共働きなので、住宅ローンをふたりで借りて、一緒に返していくつもりだった。
「それが、難しいんですよね」
「どうしてですか?」
「大阪市の同性パートナーシップ宣誓書の効力が、ちょっと。いや、借りられる銀行さんもあるんですよ。あるんですが……」
「つまり、どういうことですか」
歯切れの悪い仲介スタッフを問い詰めたところ、彼は冷や汗をかきながらも誠実に教えてくれた。
まず、大阪市の同性パートナーシップ宣誓書は、条例で認められた関係なので、国が認めた婚姻関係にはどうしても劣ること。次に、大阪市の宣誓書だけでも審査を受けられるような銀行は、金利が高かったり、手数料が高かったりするということ。
「大阪市のパートナーシップ証明書の効力を、国が認めた婚姻関係レベルにまでパワーアップさせるための書類もありますが。公正証書といいます」
「どうやったら手に入りますか」
「司法書士に頼むので、お金がかかります。10万円ほど。ただ、今からだとローン審査までに間に合うかどうか。もったいないことになるかもしれません」
ちくしょう。やはり、地獄の沙汰も金次第である。
「片方の稼ぎだけでローン審査、通りますかね……」
うなだれる私たちに向けて、彼は言いにくそうにつぶやいた。
「ギリギリ、ですかね……」
その後、仲介スタッフの尽力があり、片方の稼ぎだけでどうにかローン審査を通すことはできた。築古マンションで物件価格が安く、借りる金額が少なめだったことが功を奏したらしい。だがそんなことは後から知った話であり、通るまでの間は本当にヒヤヒヤしたものだ。
また銀行からお金を借りることになっても、ヒヤヒヤしなくて済みますように
きたる6月。条例レベルで婚姻関係にある私たちは、新居に引っ越す。できれば10年、20年、長く住みたい。そして長く住んで、住み替えか、あるいは古くなった設備をリフォームする。そのときにまた銀行からお金を借りることになったとしても、そのときにはもう、こんなヒヤヒヤした気分を味わわなくて済みますように。同性パートナーが――お金をかけて別の証明書をとらなくても――国レベルでの婚姻関係にあると、認められるようになっていますように。
いや借りるなよ、稼いで貯金しておけという話ではあるが。将来、私たちみたいな思いをするふうふが減りますように、という願いも込めて、祈っておきたい。