あの子と出会って、今年で20年。案外長かったなと、ふと思う。あの子は、私の家で今年成人を迎える。特に成人を迎えるからといって、何か私がするわけではないけれども、ひとつの節目のように感じる。

赤ちゃんより大きいサイズの「テリちゃん」という名のぬいぐるみ

成人になるからといって、お酒を用意しても飲まない。成人式に行くわけでもない。そのような、あの子。あの子は私の家で、1番私と一緒に過ごしてきた。私の人生の3分の2程一緒にいる。私の良いところ、嫌なところ、きっと沢山見てきているだろう。“あの子”がいたから、私は今日も生活をおくれる。

あの子とは、犬のテリアのぬいぐるみだ。赤ちゃんより大きいサイズ。私は「テリちゃん」と呼んでいる。小学1年生の9月に、我が家にやってきた。当時、私は北海道に住んでいて、札幌駅直結の地下街で母に買ってもらった。当時よく行っていたマザーグースの森(現在はマザーガーデン)というお店だ。
 
母が知り合いの子どものプレゼントを買う為に立ち寄った時、私も欲しくて買ってもらった。知り合いの子どものプレゼントは、全体的に茶色い子。私は白い子。汚れる心配もあったが、私は白い子を手に取った。確かそれぞれ1,000円ほどだったと思う。小さい頃は、ほぼ毎日一緒に寝ていた。少々硬めで抱き心地が良いのだ。

テリちゃんの顔は、微笑んでいる。そして、赤いセーターを着ている。夏場は暑そうに見えるので、セーターを脱がせている。尻尾が少し長い。

小学生何年生かの時、ピアノのコンクールの予選当日の朝、テリちゃんの耳がとれた。その様なこともあった。すぐ母に縫ってもらったことを覚えている。
 
中学生になった私は、とあるブランドの福袋を毎年買っていた。しかし、時には自分のサイズに合わないショートパンツが入っていた。それらは知り合いにあげることなく、テリちゃんにあげて穿かせた。冬用、夏用とショートパンツがあった。今でも着せている。

私は何度も引っ越しをしてきたが、そのたびにテリちゃんも一緒だった

今年に入ってテリちゃんの気分転換になればと、親戚の家にテリちゃんを約1ヶ月お泊まりさせた。その時、非常に寂しかった。家に何かが足りない。家に帰ると、「あっ、お泊まりしているんだ」と思った。

毎年、夏にお風呂という名の洗濯をするが、テリちゃんはうちにいる誰よりも乾きが遅い。はじめは仰向けで乾かしている。その後、うつ伏せで乾かしている。丸一日がかりだ。しかし、乾いた後のテリちゃんは、非常にふかふかしている。手はかかるが、綺麗になったテリちゃんを見ていると、私も嬉しくなる。

私は何回か引越しをしている。引越しといったら断捨離だが、私の“家族”は断捨離しなかった。関東へ引っ越した時も、京都へ引っ越した時も、また関東へ引っ越した時もサヨナラすることなく、一緒にテリちゃんと他のみんな(我が家には沢山の家族、ぬいぐるみさんがいる)と引っ越した。親元を離れてからもだ。一緒に何度も引っ越している。

20年もの間、様々な経験をし、私の成長する姿も見てきたテリちゃん

20年も一緒にいるとボロボロにはなってきている。しかし、一緒に過ごした年月だけ思い出は沢山ある。この20年間、様々なことがあった。正直、家庭環境が悪いこともあったので、辛いことが多かった様にも思える。テリちゃんはその様な環境の中で、私と一緒に乗り越えてきた。20年もの間、様々な経験をし、私が成長していく姿も見てきた。

何度テリちゃんの前で、泣いただろうか。何度テリちゃんの前で、笑っただろうか。学校や職場などで嫌なことがあった時は、テリちゃんの顔を見る。テリちゃんはいつも微笑んでいる。ほんの少しだけ心が和む。

現在のテリちゃんは、生地が剥がれて中の綿が見えている部分がある。目のフェルト部分は、毛玉がついてる。ほつれそうな場所は沢山ある。それでも、家族として我が家で過ごしている。

家族のテリちゃんは、今日も定位置の棚の上で座っている。たまに棚からおろして私と一緒に寝ている。ぎゅーって、抱きしめる。テリちゃん、今より更にボロボロになっても、私を見守っていてほしい。