私は晴れ女だ。学校行事や旅行、成人式、当日朝に雨が降っていても、晴れにしてしまうくらいの威力を持っている。

雨の思い出といっても、実家の屋根が脆くて、雨漏りどころか室内に雨が降ってきて、家の中で傘をさして過ごした程度のことである。

そんな私でも一度だけ、雨を避けられなかったことがある。イギリスに行った時だ。

研修は楽しかったが、イギリスと日本の雨の匂いが違いが気になった

イギリスといえば、夏でも曇天なのが有名で、“青い空とタワーブリッジ”はイメージしづらい。私が初めて行った時も曇りなら良い方、基本雨といった天気だった。

初めてイギリスを訪れたのは高校の時。学校の研修に参加し2週間のホームステイを経験した。実は、この時が初めての海外旅行。おまけに外国人と英会話などしたこともない。そんな状態でたった1人立ち向かったのは、今でもすごい勇気だなと思う。自ら参加を希望したとはいえ、出国前日は恐ろしさで号泣していた。

雨の多いイギリスとはいえ、その年は例年以上に雨が降った。どこへ行くにも傘を手放せない生活は初めてだ。ホストファミリーは優しい人で、雨でも自動車であちこち連れて行ってくれた。そして、不安に思っていた英会話も、言葉が出てくるまで待ってくれたり、積極的に話しかけてくれたり、気を遣ってくれていた。

初めての海外は楽しくて仕方がなかったが、一つだけ気になることがあった。傘から謎の匂いがしたことだ。日本では経験したことがない異臭。きっとイギリスと日本では雨の匂いが違うんだと思った。

最終日、私はホストファミリーにたくさんお土産をもらった。そしてたくさん笑い、たくさん泣いた。次に会う時には英語をペラペラになって驚かせよう、そう誓って私は帰国便に乗り込んだ。

イギリスの雨は異臭がすると思っていたけど、原因は濡れたままの傘

その便で一緒にプログラムに参加した友達に、「イギリスと日本って雨の匂い違うよね?」と聞いてみた。初め「うん?」って表情をしていたが、傘の話をしたら笑い出した。「それはね、部屋干しすればよかったんだよ」と。

これまで母がやってくれていたらしい傘の部屋干し。初めて親元を離れて生活した今回、1人でそのことに気づくことはできなかったのである。家に帰り、異臭を放つ傘に対して母が笑ったのは言うまでもない。

それから私は受験を経験し、大学に進学した。アルバイトをしてお金を貯め、英語の勉強を必死にした。そして帰国から6年後の夏、ついに夢が叶い、傘の部屋干しを教えてくれたあの友人と、イギリスへ再訪することが決まった。この日を待ち続けた日々を思うと、行きの飛行機の中で既に泣きそうだった。

傘を干し忘れると漂う匂いとともに、イギリスの日々を思い出す

2度目のイギリスもやはり曇天だった。前回と同じ傘を持って、あちこち巡った。そして、訪れたホストファミリーとの再会。私は夢のような時間を過ごした。当時と同じようにたくさん笑い、たくさん話した。

あの経験で自信がつき、外国人の友人がたくさんできたことも報告できた。そして帰り際、「英語上手くなったね」という一言を聞くことができた。驚かせるという夢が叶い、嬉しくて仕方なかった。

しかし、次の言葉に私はもっと驚かされることになる。「次会う時までに日本語を勉強しておくね」この言葉を聞いて、なぜ再会したいと強く願っていたのか理解した。“ホストファミリーは国籍を超えた家族”。国ではなく、人なんだと確かに実感した瞬間だった。

現在、私は一人暮らしをしているが、傘を干し忘れることはよくある。そして、漂う匂いとともにイギリスの日々を思い出す。何年後になるかわからないが、必ずまた会いに行こう、この匂いとともに、私はそう誓っている。

ちなみに最近、共にイギリスを再訪した友人に「雨女だ」と告白された。君のせいだったのか。