好きな人ができる前の私なら着なかったワンピースも、毎日欠かさないメイクも、今では私を見せる手段の一つになっている。

周りの女子がバッチリメイクでも、私はノーメイクで胸を張っていた

好きな人ができると化粧や服装が変わる、なんていうのはよく聞く話だ。私もそんな内容の記事をネットで見つけて読んでは納得している。

実際、今までパンツスタイルが多かった同期がスカートを履いてきたときは好きな人ができたんじゃないかと思ってしまったし、メガネをコンタクトに変えた同期を見たら彼氏の影響かなと考えてしまった。我ながら短絡的な発想だと思うが。

私は外見に頓着がなかったし、同学科の女子たちがバッチリメイクしていても、女らしい服を着ていても気にしなかった。周りに流されないのが私の長所だと思っていたし、そう簡単に意見を変える女でもない。私は自分らしい服を着て、ノーメイクでもこれが自分なのだと胸を張って生きることができていた。
だから、仮に好きな人ができてもそこだけはブレないと思っていた。
そのはずだった。

大学に入って2年目の夏、授業がきっかけで話すようになった同期の男子に出会った。シンプルな服装が多く、真面目そうな見た目のわりにオシャレで、笑ったときに目が細くなる人。きっかけは単純だったけれど、私は徐々に惹かれていった。

そして大学2年の秋、彼へのふんわりとした感情は恋愛感情なのだと気づいた。
しかし、彼に会えるのは週に1度の講義のみ。しかも大きめの講義室で行う授業のため、私が彼の視界に入る確率は大分低い。話しかけようにも接点はまるでなく、自分のことを覚えているかもわからない。話しかけるのは難しかった。

好きな人が出来た。自分を変えようとメイクを買い漁り、服装も変えた

どうすれば彼に存在を気付いてもらえるのか、考えていたときだった。
何気なく見ていたSNSで彼が写っている写真を見つけてしまった。とあるサークルの新入生がカメラにピースサインを向けている、いかにも新入生といった初々しさだった。
投稿年は私が大学に入学したのと同じ年。つまり、そこに写っているのは同期であるということ。

しかも、そのうちの1人が片思いの同期くんに似ていたのだ。違うのは髪型と服装。今より前髪は短く、着ている服は暗めの色のスポーツウェア。今の彼とは少し違う印象を受けた。今の同期くんは垢抜けたのだと直感的に理解した。

私も変わりたい。
彼に少しでも興味を持ってもらえるように。
この出来事がきっかけとなり、私はメイク道具を買い漁り、服の系統も変えるようになった。

慣れないメイクをした日は、気付いてほしい気持ちと下手なメイクを笑われたくないという気持ちで葛藤していた。メイクだけではなく、ヘアアイロンやヘアオイルを使って髪を整えるようにもなった。服装もチェックのパンツにパーカーというラフな格好から、スキニーにケーブルニットカーディガンの組み合わせに変えた。
足が太いのがコンプレックスで、夏でも足は出さないし、スーツもスカートではなくパンツを選んでいたのに。スキニーは絶対履かないなんて言っていたころが懐かしい。

好きな人のために外見に力を入れた。全ての自分を愛せるように

一度メイクすることを覚えてしまったから、今ではなんでもない日にまでメイクをして外出してしまうし、髪にアイロンをかけることも日常になった。良い変化だとは思う。

以前は洋服を選ぶことに楽しみを感じなかったが、今は服を選ぶという行為が楽しいし、ネットで好みの服を見つけるとついついポチってしまう。親や周りの人たちにブスだと言われていた私が、“女子大学生らしい”ことをできている。そう考えるととても嬉しいし、自分がしたことが報われた気がした。

しかし、私の長所であった”周りに流されない人”ではなくなったのだという現実を見ることにもなった。好きな人に見てもらいたくて自分を変え、結果的に私がなりたくなかった私になってしまったから。

好きな人に自分の存在をアピールするために変えた見せ方は、結果的に良いことだったのかわからない。
だけど、好きな人のために外見に力を入れるようになった自分や日常に入り込んだメイクやファッションも、全て自分の一部として愛せるようになりたい。