私は“あの子”に、まだ会ったことがない。けれど、私は“あの子”のダンスを一目見て、「なんてかっこいいんだろう、あの子は誰だ?」と思った。
その時の私は、真っ暗闇の中にいて、もう人生なんて終わってしまえとさえ思ってた。
真っ暗闇の中にいた時、凛々しく立つ「あの子」に一瞬で心を奪われた
ずっと大好きだったメイクをするのも面倒で、髪をとかすのも面倒で、人と会うのも面倒で。テレビを観ても、砂嵐みたいだった。大学も辞めちゃおうかな、このまま消えてしまいたいな。そんな事ばかり思ってた。
病院に行ったら、鬱だった。でも、そんな時なんとなく観たテレビ番組。大量の桜吹雪が舞う中で、凛々しく立つ“あの子”がいた。熱い眼差しと、カールの効いた長髪で、彼のダンスは、吸い込まれそうな引力があって、雷が落ちたようだった。桜色の落雷だった。
私は一瞬で心を奪われた。その頃のビジュアルはまるで、『ハウルの動く城』の『ハウル』のようだったから、“心臓を食べられて”しまったのかもしれない。
彼のいるグループは、とても下積みが長かった。私は、好きになるとその人となりを知りたくなるタイプだから、雑誌を買って彼のページを読んだ。その頃の彼は、まだデビューしていなかった。とても「強そうな人だ」と思っていたけれど、その“強さ”は、もともとではないようだった。どちらかというと、“強さもともと”というよりも、“奮い立たせて強くいる”ような人に思えた。
屈強そうな見た目なのに、屈託なく笑い、ダンスを誰よりも愛していた。私はダンスのことなんて全くわからなかった。「目立たぬように」と育てられた私には、とにかく無縁だったのだ。そんな私の閉ざされた世界を、一気にこじ開けるように、彼のダンスは目の前に現れて、私を魅了した。
あの子を好きになり「新しい自分」を見つけてワクワク、ドキドキした
今まで「派手なものはだめだ」と抑えられていたけど、「こういうの、好きだったんだ」って驚いた。彼の刻むビートも、ラップも、私の心を弾ませた。新しい自分を見つけたような、気持ちになった。そして、ちょっとだけ悪っぽい彼を好きになった自分にワクワク、ドキドキした(笑)。
ラジオも聴き始めた。今思えば、これは全部“自分を知りたい”って事だったのかもしれない。21時になって、周波数をあわせた。彼は馬鹿にされることを恐れる様子もなく、「俺はずっとマイケルジャクソンになりたかったんだよね」と照れ臭そうに、でも、自信を持って言った。
「本当にダンスが好きなんだな」と思った。でも、「お腹痛くなりながら、毎週レッスンに通った」とも言っていた。大切にしているものは、「ジャニーさんに買ってもらったダンスシューズ」と言っていた。「もう、ボロボロだし、足が入らないけど」とも。
ドキュメンタリー番組を観た。激しく、苦しい稽古でも、弱音一つ吐かない彼が、怪我をした。梯子から足を滑らせたのだ。小さく項垂れて、小さく弱音を吐いた。同じ人間だと思った。
小さく弱音を吐いたあの子へ「手紙」を書いた。すると返事が来た!
私はいても立ってもいられなくなって、彼に手紙を書いた。舞台稽古をしている楽屋に宛てて。少し長くなったな? と思いながらも、ポストに投函した。感情が動いたのも、身体を動かしたのも久しぶりだった。そうして間もなく、彼らはデビューすることが決まった。久しぶりに嬉しいと思った。
1月22日、私の家のポストに一枚のハガキが届いた。「〇〇ちゃんへ Hey you let me go ! 岩本照」という手書きのメッセージと、1円切手が貼ってあった。
返ってくると思わなかった。“あの子”がいたから、私は立ち上がることができた。このハガキを見るたびに、そう思う。そして、今はゆっくりだけど、“彼ら”のおかげでちゃんとしっかり歩こうと思えるのだ。