あの子は私にとって、いつも目障りな存在だった。

あの子とは、物心ついた頃からの幼なじみで、兄弟のいない私達は、自然といつも一緒にいるようになった。幼稚園も小学校も中学校も同じで、登下校も一緒だった。

私の後ろをついてきたあの子。いつからか真似をされるのが嫌だった

片方が怒られている時は、必ずついて行って2人で謝ったし、近所のおばさんに双子と間違えられたこともあったっけ。いつだって、「ましろましろ」と私の名前を呼んで、後ろをついてきていたあの子。始めは妹ができたようで嬉しかったが、いつからか、私は真似ばかりされるのに嫌気がさしていた。

あの子は、本当は運動なんて嫌いなくせに、私に合わせてバレー部に入った。高校だって、家から遠いくせに私と同じ学校を選んだ。好きな人もそうだ。私の後から、同じ人のことが好きだなんて言い出して。結局、2人して振られちゃったけど。

私にも友達がたくさんできて、あの子を邪険にするようになってからは、自然に私とは距離を置くようになっていたんだっけ。あの子は私の代わりに、正反対の気の合わないような友達とつるむようになっていた。

どう見ても違うタイプなのに無理をして、背伸びをして話を合わせているのが、側から見ても痛々しかった。「あれなら、私といた方が楽しかったんじゃないの?鬱陶しいけど、何だかんだであざとらしい妹くらいには思っていたのに」と馬鹿な私は、そんな傲慢なことを考えていた気がする。

あの子と離れて日々を重ね、抜けた穴ばかりが気になって虚しくなった

しかし、やがて私も間違いに気がついていく。公園で、1人で練習をしていてもボールを拾ってくれるあの子はいない。勉強をしていても、「教えて欲しい」とねだるあの子はいない。あの子と離れて日々を重ねるうちに、あの子の抜けた穴ばかりが気になって虚しくなった。

元の関係の2人に戻ろうにも、思春期の私にとって、それはテストをこなすよりも余程難しい問題だった。同じ教室にいながら、同じ部活にいながら、お互いのことはもう見えていない。まるで、磁石みたいだ。2人が違っていた頃はピッタリくっついていたのに、あの子が私と同じになってしまったから、S極同士は反発し合うようになってしまった。

結局、それから卒業までの長いようで、短い青春の1年間、あの子とは口もきかず終いになってしまった。卒業式ですら、何も話すことはなかった。言いたいことはたくさんあったが、桜の咲く道を歩くあの子の後ろ姿を追うことはできなかった。

久々に会ったあの子はすっかり変わっていて、私には眩しすぎた

その後も特別に互いに連絡を取ることもなく、次の春がきた。1年ぶりにクラスメイトの集まる同窓会で、久しぶりにあの子に会った。久々に会ったあの子は、すっかり変わってしまっていた。ブランドもののバッグを持って、しきりに口紅を塗り直す彼女はもうあの子ではなかった。私の後ろに隠れていた、控えめでおっとりとしたあの子は、もうどこにもいなくなっていた。私がいなくても、みんなに笑顔を振りまいて、太陽の下にいる彼女は眩しすぎた。

帰りの電車に揺られ、学生時代と同じ風景を横目に考えた。あの子は私と似ていたから、ずっと目障りだったんだ。私はいつも自分に自信がなくて、人に合わせてばかりだった。自分の意見なんて言えないし、周りが正しいと信じていた。そんな自分を変えたくて、無理をしてでも自主的に動くようになったんだ。

昔の私に似ているあの子だから、嫌いだった自分を見ているようで、もどかしかった。本当は、いつも側にいてくれる大切な存在だったはずなのに。気がつくのがあまりにも遅すぎた。

心の中で、今はいないあの子に謝った。そして、携帯に残っていたあの子からのメールを全て消した。