今でも、ずっと気がかりなことがある。私が裏切った“彼”は、どうしているのだろう?
いじめられていた私をいつも庇ってくれたのは「優しい彼」だった
中学生の時、私はいじめを受けていた。「死ね」「人間じゃない」「消えろ」「ブス」と、悪口は一通り言われたし、自分の履き物がトイレから出たらなくなっていることやノートが蹴られていること、仲間外れはざらだった。内向的な性格だった私は言い返すことができず、うずくまり、泣いてしまうことが多かった。
そんな時、いつも私を庇ってくれたのは“彼”だった。彼といっても彼氏ではない。とても大切な友人だった。彼は中学生ながら気遣いのできる性格で、私が辛いことがあるといつも話を聞いてくれた。泣き止むまでずっと励ましてくれた。「アナウンサーになりたい」という夢を唯一、笑わないでくれた。
それどころか、「りぷならなれるよ、りぷがテレビに出るの楽しみにしてるからな! 俺も医者になれるようにがんばる。お互いがんばろうな!」そんなふうに言ってくれた。私は彼のような友人を持てたことが、誇りだったし、いつか彼のように優しくなりたいと思っていた。
私は、優しい彼の心に抱えた「2つの悩み」を知らずにいた
そんな彼の心に抱えた悩みを私は知らなかった。彼は大切なものを2つ失っていた。1つ目は、彼が大好きな家族が離れ離れになったこと。離婚だ。仲がいいと思っていた彼の家族に、何があったかはわからない。妹と母は、家を出たらしい。「父さんが寂しくなるから」と彼らしい理由で、父のもとに残ることにしたらしい。
2つ目は、“彼が大好きだった部活仲間”。私を庇うことによって、彼までいじめられるようになったらしい。これはその部員たちから「お前のせいで、あいつは居場所がなくなってるんだ!」と言われたことでわかった。
今となっては、そんなふうに言ってくる部員たちがおかしいとすぐにわかるのに。メンタルがおかしくなって、視野が狭まっていたのか…。「彼の近くから離れたら、彼をいじめないでくれる?」。私は部員たちに話していた。部員たちは「もちろん」と言った。誰よりも優しい彼が大事な家族を失った挙句、仲間を失うなんて、私には許せなかった。自分で自分を消してしまいたくなるくらい嫌だった。
失うのは辛かったけど、私は彼に言い放った。「ねえ、私あんたのことおせっかいだなって思ってた。まじで嫌い」。散々頼っていたのは私なのに…だ。でも、彼は寂しそうに笑って「ごめんな」と言った。彼へのいじめは止んだけれど、私は辛いままだった。
卒業式の日。私は彼とは違う高校に行くことが決まっていた。彼と一緒の高校に行って、彼の行く末を見るつもりだったのに。素敵な人と結婚したり、家族を築いたり、彼の幸せを見られると思っていたのに。彼は1年ぶりくらいに話しかけてきた。「りぷ、幸せになれよ」。裏切った私にすら、優しくしてくれる人だった。
あれから13年経つけど、優しかった彼は今でも私を支えてくれている
あれから、13年になる。「あの時、ひどいこと言ってごめんね」と謝りたい彼は、どこで何をしているかわからない。それでもこの間、忘れたことはなかった。少し遠回りをしたし、希望したアナウンサーではないけれど、テレビ局のリポーターとして働き始めた。毎日叱られて逃げたくなるけれど、いつか、彼の目にも届くリポートをつくるのが、私の今の夢だ。
ありがとう。ごめんね。でも、離れてからもずっと、支えられていました。がんばり続けられたのは、あなたのおかげでした。あなたは今、幸せですか?
問いかけたい彼はどこにいるか分からない。いつか会えたら、あの時言えなかった「ごめんね」や「ありがとう」を言いたいから、私は前を向いて生きていく。