好きっていう気持ちの最上級が、大好きでも、愛してるでもなく「君になりたい」だと教えてくれたのは、君だったように思う。

私と君は、いくら話しても止まらないくらい「たくさん」話題があった

君は私よりスマートで、背が高かった。彼氏もいたし、運動部で活躍してた。面白いことが言えて、クラスのみんなが話しかけやすかったんじゃないかな。流行りも私より知ってたし。持ってる物も、私が欲しいなんて金額的にもキャラ的にも言えないような、スポーティーでかっこいい物ばっかりだった。

だから、なんで気づいたらお昼を一緒に食べてたのか、よくわからない。ただあの頃は、本当にいくら話しても止まらないくらい話題があった。まだ足りなくて、LINEもたくさんしたね。

君の好きなバンドのこと。国語科の先生が嫌いってこと。君は、もう少しで彼氏とよりを戻せそうなこと。私は、好きな人すらいないこと。君の昔からの親友のこと。私はできるだけ昔の友達と離れたくて、この学校に来たこと。君が惚気れば君の彼氏は素敵な人だし、喧嘩すればぶん殴ってやりたい奴だった。ただ、君になりたかった。

気づいたら君の気持ちは、これっぽっちも私の近くに残ってなかった

気づいたら私は君じゃなくて、君の周りの物と言葉だけを見てた。君の言うことを真似したし、持ってるもの、やってること、何でもかんでも。君がそれをどう思ってたのか、顔にハッキリ書いてあったのに、それすら見えなかった。そして、君の気持ちはこれっぽっちも私の近くに残ってなかった。

いや、正確に言えばさすがに気づいてた。それでも、せっかく築いたこの位置から離れるなんて嫌だった。それに私は、何より君になりたかった。親友なんて言ってもらえないって分かってたから、せめて1番の理解者、そして君になりたかった。今まで私はなんでも話してきたし、君だってそうだと信じてた。そんな簡単に壊れたりしないと思ってた場所だった。

君はここにいるのが嫌だったろうに。桜の花びらくらいあった話題は、1枚も残ってなくて、ただグラタンの下から出てくる占いを暗記するくらいになってしまったのに、それでも私はそこにいた。

桜の花が咲かないまま、何度も一緒に下った坂を下りるのも最後の日になった。なんとなく2人になって、君がおもむろに地元の大学に行くことを話し始めた。「合格おめでとう」すらお互いに言ってなかったけど、君は私が大きな街に行くことを知ってた。

あの頃は本当に君になりたかった。でも、私は私でしかないね

「そっか」と、お互いにそれしか出てこなかったように思う。多分あの時は、風か強かったんだ。他の言葉が聞こえなかっただけ。それか、「写真撮ろう!!」って割り込んできた誰かの声にかき消されただけ。きっとそう。だってあんなに話題があったんだもん……前はね。

元気ですか。あんなに君のことを何でも知りたかったのに、今君がどこで何をしてるか何にも知りません。ただ君が教えてくれたバンドの曲は、イントロで分かるようになったよ。

どう頑張ったって、私は私以外になれないことにも気づきました。あれだけカラオケで歌ってたのに、気づくのが遅くなってごめんね。私は最近タイプなカフェの店員さんを見つけました。こちらは、桜の花が散って綺麗です。