大学を卒業するタイミングで、腰まで伸ばした長い髪をばっさり切り、初めて髪を染めた。髪を切るなんて、他の人からしたら大したことじゃないと思う。
でも、子供の頃から長くてきれいな黒髪が自慢だった私にとっては、アイデンティティを失うことと同じだった。
周りの人から見られる「印象」を変えたいと思い、髪を切った
大学に上がるタイミングでほとんどの女子が髪を染める中、ずっと黒髪ロングを貫いているのは私くらいで珍しがられたし、髪を褒めてもらう機会も多くて誇らしかった。そんな大切な髪を切ったのは、周りの人から見られる印象を変えたいと思ったからだ。
私は今まで初対面の人に、「大人しそう」「真面目そう」というイメージを持たれることが多かった。実際、人見知りだし、大人しくて真面目な性格だけど、まるで面白みのない人間と言われているようで、なんだか嫌だった。
男性からも「遊んでなさそう」とか「尽くしてくれそう」なんて理由で好意を持ってもらえることが多かったけれど、見た目からそんな風にイメージを決めつけられるたびに、「私のこと何も知らないくせに…」と反発心を抱くようになった。
本当は気が強いし、割といい加減な人間だ。本当の自分を知られた時、見た目とのギャップでがっかりされるのは損だなと思った。見た目を変えることで、周りからのイメージを変えられるならと思って、その第一歩として髪型を変えた。
髪を切り第一印象は多少変わったけど、人となりは見抜かれてしまう
鏡に映った髪が短くて茶髪の自分を初めて見た時、新鮮さと同時に自分が自分じゃなくなったような寂しさを覚えた。私らしくなくなってしまった。そもそも、私らしさって何なんだろう。髪型だけが、自分らしさだったのかなと、色々考えて少し落ち込んだ。
しかし、髪型を変えても、周りから持たれる印象はあまり変わらなかった。女性に「お洒落だね」などと褒めてもらえることは増えたけれど、周りの人の態度が変わったりとか、友達が増えたりとか、そんな変化は起こらなかった。
もしかしたら、金髪とか赤髪とか奇抜な髪型にしていたら大きく印象が変わったのかもしれないけど、髪を茶色く染めてショートにしたところで、どこにでもいる普通の女の子になっただけだった。
人の印象は、見た目や声、話す内容、表情など、様々な要素で構成されると思う。髪型はその要素の中の一つに過ぎなくて、それを変えたところで何も変わらないのだろうなと悟った。
第一印象は多少変わるのかもしれないけれど、結局内面が変わっていなければ、人となりは見抜かれてしまう。周りの人は、見た目だけで私のことを判断しているのだと思っていたけど、実際は人は見た目が10割ではない。内面が見た目ににじみ出ることはあっても、結局は中身が周りからの印象を決めるのだと気付いた。
周りから見られたい自分じゃなく、自分が好きになれる自分を目指そう
見た目だけでは印象が変えられないのならと、次は内面を変える努力をしてみることにした。そうはいっても、性格を変えるのはなかなか難しい。そこで試しに、口癖だった「多分」とか「~だと思う」などの曖昧で頼りなさそうな言葉を使うのをやめた。
これは髪型を変えるよりも、印象を変える効果があったように感じる。まず、自分の内面が変わった。仕事を頼まれた時、「多分できると思います」ではなくて「いつまでにできます」と言い方を変えるようにしただけで、まるで言葉に自己暗示を掛けられたように自分の仕事に対する責任感がぐっと高まった。責任のある仕事を任せてもらえる機会も増えた気がする。そんな自分のことが最近はちょっと好きで、髪型がどうとかそんなことはどうでも良く思えるようになってきた。
こんな風に見られたい、こんな風に接してほしい、誰でもそんな願望はあると思うけど、どう頑張っても自分は自分で、他の人にはなれない。見られたい自分像を作り出してしまうのは、自分に自信がないからだと思う。
“本当の自分”と“見られたい自分”に乖離が生まれるとすごく苦しい。だから、私は周りから見られたい自分を目指すのではなく、自分が好きになれる自分を目指そうと思う。
大学を卒業した時に短く切った髪は、最近また伸ばし始めた。自分の好きな髪型で、好きな服を着て、堂々と生きていればきっと、周りの人も本当の私を好きになってくれると信じている。