友人の結婚式で、私は受付係を務めることになった。中学、高校と良くしてくれた友人だったから、恥をかかせるわけにはいかないと思い、メイクはもちろんヘアメイクも馴染みの美容師さんにお願いした。当然自分ではなかなかできないような華やかな仕上がりとなり、まるで自分ではないようだと、嬉しい気持ちになったのを覚えている。

おめかししたのは、無駄ではなかったんだなあと思ったのだ

さらに印象に残ったのが、結婚式の後でその友人と食事をする機会があり、その時に言われたことだ。

「『あの受付係をしていた子が綺麗だった』って言ってた人がいたんだよね」

あまり外見を褒められたことがない私にはかなり嬉しいことで、思わず食い気味に「誰?」と聞いてしまった。始まるかもしれないロマンスに、私の胸は高鳴った。

「旦那の職場の人。おじさんだけど」

おじさんかい!
思わずズッコケた。ロマンスは音を立てて逃げていった。
ただ、普段の私を見てもそのおじさんは何とも思わなかっただろうから、おめかししたのは、無駄ではなかったんだなあと思ったのだ。

名も知らないおじさんから褒められて、何を喜んでいるんだと思う人もいるかもしれない。
それくらい、私は人からあまり外見で褒められた経験がなかったのだ。
ただ、それは当然のことで、私はあまり自分の外見を磨くというのに重きを置いてこなかった。化粧には力を入れるようになっていたが、体形や髪型には無頓着だった。
髪の毛の量が多く、伸びるのも早い私は、一時期は月に一回の頻度で美容院に足を運んでいた。ただ、それはだらしなく伸びた髪を整えるという行為に過ぎなかった。
つまり、カットのみでパーマやヘアカラーとは無縁だった。

髪型を意識して仰天した。伸び切った黒髪がまとわりついていた

それからは、髪型は大事だなという認識が芽生え、まずはパーマをかけてみた。しかし、眼鏡のせいなのか何なのか「教育ママ」のような見た目になってしまい、これは合わないなと気が付かされた。鏡を見るのが少し憂鬱で、こんな時ばかりは髪の毛が伸びるのが早いことに感謝した。
しかし、髪型を意識するようになると、伸び切った黒髪がまとわりつく自分を見て仰天した。
私ってこんなに野暮ったかったんだ。
特に、黒い髪が重たい印象をより強くしていた。

私がこれまで頑なに黒髪を維持し続けていたのは、髪の毛が外見上の唯一の長所だったからだ。髪の毛が褒められるたび、心の中では「顔は綺麗じゃないってことね」といじけながらも、黒髪への矜持を強めていた。
黒髪を失ってしまったら、私の長所は失われてしまうのではないかと思っていたのだ。

ただ、どう考えても今の私はいい状態とは言えない。
髪の毛を明るくすれば、多少はあか抜けて見えるかもしれない。
美容師さんにそのことを伝えると、喜んでくれた。これまでにも何度かヘアカラーを勧められたことがあったが、いつも「似合わないから」と断っていたからだろう。

いつもは皮肉屋な自分が鳴りを潜め、ほんの少し自分に自信が持てた

美容師さんはテクニックを駆使して私の髪の毛を整えてくれた。毎回毎回「美容師さんは魔法使いだな」とか「これ、自分ひとりじゃ絶対できないアレンジだな」と思いながらも、普段と違うおしゃれな自分の姿に心が弾んだ。
美容院を出て、ふと鏡に映った自分の姿を見る。
ほんの少しだけ明るくなり、ゆるいウエーブのかかった髪。

結構、いいじゃん。

気が付けば、微笑みが浮かんでいた。
いつもは皮肉屋な自分が鳴りを潜め、ほんの少し自分に自信が持てた気がした。

なんて、美容院を出た直後は思ったものの、髪の毛が伸びる速度は変わらないから、すぐに私は美容院を訪ねることになった。そんなサイクルが何度か続き、黒髪が目立つようになってきた頃、私はまた髪を染めた。

それから数年がたった今でも、私は黒髪に戻していない。会社の規定もあるから、それほど明るい色には染められないが、規定の範囲内で明るく染め直している。
最後に美容院を訪ねてから一ヶ月程度経過した。次は久しぶりにパーマをかけようかと思っている。

魔法をかけてくれるのは美容師さん。だけど、どんな魔法にするかは私が決めること。
なりたい自分を見つけるのは大変だし、迷うこともあるけれど、納得できる自分に出会えるよう、今から目星をつけておきたいと思う。